今回のThe News Masters TOKYO』マスターズインタビューは、神奈川県鶴巻温泉の旅館「元湯陣屋」の女将・宮崎知子さん。 10億円もの負債があった倒産寸前の状況から、今では人気旅館となった「元湯陣屋」。 女将経験が全くない中で宮崎さんは、ITを導入して仕事をマルチタスク化し、業界では異例の週休3日制も導入。 宿泊単価も強気の値段設定にするも、売り上げは倍になり、社員の年収も4割もアップした。 「精神的につらかった」時期もあると振り返る宮崎さん。 そんな宮崎さんが目指す旅館業の未来について、タケ小山が迫る。
旅館業を憧れの職業に
働き方を改革した宮崎さんは、新卒採用にも精力的に取り組んでいる。
その先には、ある思惑があった。これだけの改革を行ったのでさぞかし紆余曲折があったのではと想像される。
しかし…。
タケ:
従業員からの反発もあったのでは?
宮崎:
反発は、あったかもしれないけど気付かなかったです。正直、眼の上のたんこぶでいいやと思っていました。
教師や上司が飲み屋で、酒の肴になるのは世の常。「そういうものかな」と思っていたと語る宮崎さん。
女将経験がないにもかかわらず、実に肝が据わっている。
この10年で旅館は25%減り続けており、後継者がいない、加えて生産性が低いので、従業員が疲れ果てているということで、元湯陣屋のように改革を行えずに、閉じてしまった旅館も多いのだそうだ。
決して好調とは言えない状況がうかがえる中で、新卒採用を行い、この4月には7人もの新入社員が入社予定。
そこには宮崎さんのこんな想いがあった。
宮崎:
旅館業を憧れの職業にしたいをグループのスローガンにしています。
本人にはやる気があっても、保護者の方が「大学を出たのにサービス業だなんて...」と悲観されるケースも少なくないという。
宮崎さんは「やりたいならやりなさい」と言われる仕事にするために、旅館でもビジネス的にも成り立ち、人生をかけて取り組む仕事にするという、業界のイメージ改革にも尽力している。
旅館業の未来
現在宮崎さんは、元湯陣屋に導入した管理システムを他の旅館に提供しているほか、スタッフの融通、メニューのサポートなど、全国の旅館をつなげる仕組みを導入している。
宮崎:
資本関係がなくても助け合い、そして後ろから地方の旅館を支えられたらと思っています。
全国には300~500年続いている旅館がたくさんある。それはただの宿泊施設ではなく、もはや地域の文化の担い手である。
ここにM&Aで大手資本が入ると、雇用は守れても、文化は守れないこともある。
宮崎:
大手資本のお世話になるのも選択肢ですが、そこで踏ん張ってもらう方が国としても、観光産業としても良いと思っています。
身近にあるけれど気付かない魅力があるということを最近しみじみと感じるんです。
神奈川県の秦野は、地元に住んでいる人からすると、観光地や名物がないと思われているが、他の地域の人から見ると発見があり、全国にはそういう例がたくさんある。
もちろん一つの観光地でこれを行うのもありだが、元湯陣屋では、現在オーベルジュ箱根との連泊プランを出している。
例えば1泊目の元湯陣屋は和食、2泊目のオーベルジュはフレンチを出す。
ドライブし、寄り道しながら秦野~箱根間の移動だが、この仕組みを地方に持って行きたいと宮崎さんは考えている。
宮崎:
隣の温泉郷などを結んで、点と点を線につないで、地方の観光地や街に人を観光客を送り込むことができたら。
経験ゼロから旅館業に飛び込んだ宮崎知子さん。
10億円の負債の返済目途はすでに立っており、今では旅館での働き方だけでなく、旅館業界の生き残り、地域産業について考えを巡らせるステージに立っている。
「旅館業を憧れの職業に」この壮大なイメージ改革への施策は、旅館業界のみならず、同じ悩みを抱える他の業界にも応用できるのではないだろうか?
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