5つの力分析・PEST分析のフレームワークで見る「クリーニング業界」

画像: grassrootsgroundswell

2015.07.17

営業・マーケティング

5つの力分析・PEST分析のフレームワークで見る「クリーニング業界」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 市場環境を分析する際に、「何のフレームワークを用いればよいか?」と悩むことがあるだろう。筆者のオススメとしては、まずは自分の得意なフレームワークで一度分析してみることだ。その結果、よくわからなかった所があれば、最も適したフレームワークを判断してもう一度分析をしてみるといい。 多少データの鮮度にバラツキはあるが、ここ数年で大きな岐路に立たされている「クリーニング業界」を例に考えてみよう。

 <後継者がいない変わる業界構造>(全国ドライクリーニング新聞社・06年12月10日)

 <クリーニング業の経営実態調査では、経営者の高齢化も明らかになっている>という。結果的に<個人経営の今後の活路として、「専門店化・高級店化」を考えるところも多いが、一方で「転廃業」「取次店化」に向かうところもある>とある。つまり、一部を除いて「零細個人経営店」から「大手寡占化」に向かっていることがわかる。
 上記は「業界内の競争」という要素だ。クリーニング業界内にどのようなプレイヤーがいて、どのような戦いをしているのかを考えるのだが、ファクトを整理すると、大手寡占化によって、恐らく大手間の価格競争が激化し、大手も厳しく中小零細は生き残りの危機にある競争状態であると推測できる。つまり競争は「激しい」。
 次に「新規参入の脅威」という要素を考えてみよう。クリーニング業界は設備産業であり参入障壁が大きい。大手寡占化しており、価格競争激化で魅力も失われていることを考えると、今さら参入を狙う企業が少ないため、脅威は「小さい」。但し、零細店が大手参加の取次店に転換した「クリーニング取次業界」で考えれば、ちょっとした店舗の空きスペースがあれば参入できるため、脅威は小さくない。自分がそもそも何の業界を分析しているのかという、「業界定義」を間違えないことが肝要だ。
 最後の「売り手の交渉力」という要素。事業を行うための原材料や機材、人的資源などの確保をする相手がどの程度強い力を持っているかである。Wikipediaの「原油価格」という項に次のような記述がある。
 <クリーニング業はドライクリーニング用の石油系溶剤をはじめ、乾燥用ボイラーの燃料、包装用ビニール、配達用の自動車燃料など石油に依存した産業であり、原油高騰の影響を受けやすい>
 08年の石油価格高騰では悲鳴を上げた業界の一つではあるが、リーマンショックで大幅に原油価格が下落し、10~11年当時の展望も価格上昇のテンポは緩やかだろうといわれていた。故に、売り手の交渉力の中で最も大きな要素が安定しているため「弱い」といえるだろう。
 以上のように、業界の「5つの力」を見ると、「業界内の競争」「買い手の交渉力」「代替品の脅威」の3つが強い状況だ。他の「新規参入の脅威」「売り手の交渉力」は弱いが、前の3つが致命的に作用している厳しい状況であることがわかる。
 これだけでも十分現状は把握できるが、今後、この業界がどのようになっていくかはわかりにくい。そもそも、「5つの力分析」は、ある時点の業界の状況を「スクリーンショット」のように切り取って見ることが得意なフレームワークなのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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