「刑事訴追の恐れがある」繰り返しこの呪文を唱えることであらゆる情報開示を拒否した佐川前国税庁長官。唯一すらすら話せた内容は「首相や官邸など、指示はない」ということだけ。この証人喚問から得られるものはなかったのでしょうか?
しかし名探偵明智小五郎の眼だけはごまかせず、回答の時間のような自然すぎる不自然さから疑いを持たれ、結局明智の仕掛けたひっかけに犯人ははまり、その目論見は突き崩されます。準備をし過ぎたことで墓穴を掘ってしまったのです。
佐川氏の証言を見ていて一番思い起こしたのは正にこの「心理試験」でした。できすぎの答弁、恐らく今回の前長官と政府側の目的である「官邸への波及を阻止する」というコミュニケーションのゴールを完璧すぎるほど果たした点も、小説の犯人とダブって見えました。
4.証人喚問のコミュニケーション的評価
ではこの証人喚問は成功だったのでしょうか?
コミュニケーションの観点から見るなら、ゴールをどこに置くかが重要です。謝罪会見などと同様に「ただ謝れば良い」とか、「無罪主張をすれば良い」訳ではありません。事態収拾こそが、本件の最大のゴールのはずです。ではこの喚問を見た国民はこれで納得でしょうか?
マスコミ報道を見ても、産経や読売でさえ不十分であるとの社説を掲載しています。喚問で国民の疑惑が解消されたと二階幹事長は言っていますが、とうていそうは思わない人が多いでしょう。
もっとも、ではどんなふうに話せば良かったのかについては、きわめて難しいことは間違いありません。なぜなら佐川氏自身の責任を否定できたらそれは安倍首相・官邸側の責任になり、自分が責任を負えば犯罪者になりかねず、どの方向に持って行くこともできないからです。
ある意味悪魔の証明のような困難な課題を背負って証言したのが佐川氏だったといえます。そう考えるならば、ノラクラ答弁と証言拒否で貫かれた佐川氏自体はほぼ完ぺきに目的を遂げたと考えられます。結果として責任は今後の大阪地検などの捜査にゆだねられています。
一方政府は佐川氏が明確に否定したことで安倍政権への責任追及を逃れたいところでしょうが、それを決めるのは国民です。恐らく来年の参院選までないであろう国政選挙のような審判が下るには時間があります。その間にきっと皆忘れるだろうとの読みがあるのではないでしょうか。
つまり「時間稼ぎ」こそ、今政府側が取れる唯一の戦略であり、それにうまうまと乗るか乗らないかは総て、国民の意識にかかっていると言えるでしょう。鳥のように三歩歩いて忘れないよう、自覚したいと思います。
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2018.04.06
2023.08.18
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。