昨年末(2016年12月15・16日)に行われた日ロ首脳会談。その席でロシアのプーチン大統領から「シベリア鉄道 北海道延伸」の要望案が提示され、鉄道ファンの間でも大きな話題となりました。 日本政府はこの提案を見送る姿勢を示しましたが、経済協力を仰ぐロシア側は日本の技術・支援に期待を寄せ、鉄道廃線の危機にある北海道の一部地元でも、延伸を望む声が上がっています。 実現すれば「鹿児島からロンドンまで列車旅行も可能」という、まさに壮大な夢の構想プロジェクト ―― 果たして将来、実現する可能性はあるのでしょうか?
巨大海底トンネルを建設、サハリン経由で大陸と日本をつなぐ!
ユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道(全長9297km)は、日本海沿岸のウラジオストクとモスクワを7日間で結ぶ世界最長の路線です。
今回、ロシアが提示した延伸プランは、シベリア鉄道から分岐するバム鉄道(第2シベリア鉄道/全長4324km)を東へ延長し、大陸・サハリン間の間宮海峡と、サハリン・稚内間の宗谷海峡を巨大な海底トンネルで結ぶというもの。
これにより、シベリア鉄道がサハリン経由で北海道までダイレクトにつながり、最終的には欧州各国~日本全国(沖縄を除く)が陸路で結ばれることになります。
経済協力で日本に大きな期待をかけるロシア
実は、サハリンと大陸を結ぶ構想は古くからあり、1950年にはスターリンの指示で海底トンネルの建設が始まったものの、1953年のスターリン死亡にともない建設が中止。プーチン大統領が就任した2000年以降、トンネル建設の計画が再び検討されましたが、人口50万人ほどのサハリンでは投資に見合う経済効果が見込めないことから、日本への延伸プランが浮上したというわけです。
近年、ロシアが経済危機に瀕する中、極東の物流拡大を狙うプーチン大統領は「日本とつながれば、シベリア鉄道は貨物でいっぱいになる」と強気の姿勢を見せ、日本からの技術提供や投資誘致に期待感を示しています。
北海道の鉄路存続・地域活性の追い風に
サハリンから日本への玄関口となる稚内の周辺地域や、経営難にあるJR北海道からも、鉄道延伸を歓迎する声が上がっています。地元地域の重要な観光・生活路線であるJR宗谷線(稚内~旭川)が、いま存続の危機に直面しているからです。
昨年秋、JR北海道は宗谷線の7割を占める名寄~稚内の区間を、JR単独では維持できないと発表。同区間の線路維持を自治体に任せる「上下分離方式」や、駅の廃止などを協議したいとの考えを示しました。
もし北海道延伸が実現すれば、日本に上陸したシベリア鉄道は、まず宗谷線を走ることになり、延伸に合わせ国主導で路線整備が進められます。となれば、地元地域の物流・観光の活性化とともに、経営に苦しむJR北海道を救う突破口になる可能性があるのです。
技術的には実現可能だが、コストパフォーマンスに難題が
では、北海道延伸の実現性はあるのでしょうか?
間宮海峡を横断するには最短で約7km、宗谷海峡は最短で約42kmの海底トンネルが必要となります。どちらも水深が比較的浅いため、青函トンネルの難工事を成功させた日本の技術力を考えれば、建設はそれほど難しくないとみられています。
しかし、この壮大な計画にかかるコストは、少なくとも1兆円規模になるという試算が出ています。トンネル建設の費用は1kmあたり約100億円といわれ、単純計算で宗谷海峡に海底トンネルを建設した場合の費用は約4200億円。さらに、インフラ面に不安を抱えるJR宗谷線の再整備などを加えると、最低でも1兆円を上回る費用が必要となるのです。
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