女性暴行事件の容疑者だった高畑祐太氏が不起訴となり、その謝罪?がマスコミの前で行われました。しかしその模様の異様さから、不起訴にもかかわらず反発も呼んでいます。危機対応の視点から見て、この件の扱いは裕太氏だけではなく、女優の母・高畑淳子さんを含めた「高畑家」の問題として取り組む必要があります。
この危機が裕太氏単独のものであれば、この方向は間違っていないと思います。しかしこれを高畑家の危機ととらえたらどうでしょう。不起訴であること自体がお金で解決した、口封じをしたなどと批判する人は当然出ます。またあの睨みつける目は全く反省していないなどの批判も当分残るでしょう。
法的には犯罪が起こっていないと認定されたものであっても、これを感情的に世間一般は受け入れるでしょうか。この事件に批判的な感情を持つ人にとって、法的結論以上に重要なのはイメージです。危機管理、事態収拾で欠かせないのは「何を目標とするか」というゴール設定です。
結果として示談、不起訴という流れは、印象上白か黒かの二者択一の結論ではない状況を作りました。どんな状況に持っていきたいかというゴール設定は危機において決定的に重要です。
・ペニオク事件
2012年ごろあったペニーオークション詐欺事件では、広告に出た芸能人が大きな批判を呼びました。そのことが原因でほぼ芸能界から消えたといわれる人もいます。一方で、広告に関与していながら事件後姿を現さなくなり、事件の記憶も薄れたころ、少しずつ露出を増やしてきた人もいます。毎日のように芸能ニュースがあふれる現代、1ヵ月前のことですら記憶からどんどん薄れていく中、3年も4年も前の事件のことなど、覚えている人の方が少数になっていきます。
成功した危機管理にはこのような「記憶から消える」というものもあります。食品材料で偽装があったと、端緒となったホテルチェーンの社長が自社の責任を回避するかのような説明をして炎上した事件がありました。しかしその後他にも食材偽装をしたと謝罪する専門店やレストランが雨後のタケノコの如くあふれかえました。今、それがどこの店だったか、ほとんど記憶に残っていません。
こうした時間をつかって印象を薄めることも危機の収拾においては選択肢の一つです。ただしこの方法は、人の記憶から消え去るほどの長い時間が必要です。数年間露出が無くなるという空白を経て、必ずその後復活できる保証はありません。むしろ流れの速い芸能界などは、悪い記憶だけでなく、本来の芸能における存在感をも消し去ってしまうリスクもあります。
・守るべきプライオリティ
今起きているのは芸能生命をも脅かしかねない危機です。それは新進俳優である裕太氏ではなく、おそらく高畑家を支える淳子氏の危機です。これを守ることが最優先であり、これが崩れれば一家を支えることが出来なくなる恐れがあります。
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2017.07.04
2022.11.03
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。