昨今、シングルソースかマルチソースか、といった議論がありますが、本当にそのような二律背反的な考え方でいいのでしょうか。それよりも調達購買部門には競争と協調のバランスを取りながらイノベーションを促していくことが求められています。
調達購買を巡る議論で「マルチソースがいいか、シングルソースがいいか」というものがあります。特に今年に入り熊本地震をはじめとして工場火災などのトラブルによりサプライチェーンが断絶した際には必ず話題になるものです。
一方でマルチソース、シングルソースと言ってもその言葉の定義が業界、企業、人によって違うことに気がつきます。ここでは、マルチソースとは同じモノ(サービスも含む)を2社以上のサプライヤから購入することと定義してみましょう。サプライチェーン断絶のリスク分散という点では、マルチソースかシングルソースかだけでなく、マルチファブ(同じサプライヤの違う工場で製造する)という手法もありますし、在庫を持つ(持たせる)という手法も考えられます。
しかし実態としてはマルチソースにしてもマルチファブにしても、全く同じものを複数拠点で製造することになるので、相当生産量が多くないとトレードオフが生じ、追加コストが発生してしまうでしょう。またマルチファブや在庫をサプライヤに持たせることもサプライヤに相応の負担をさせることになりますので、バイヤー企業にかなり影響力がなければできない手法と言えます。
一方で上記のマルチソースの定義とは異なりますが、品目群で複数のソース(サプライヤ)を持つことはサプライヤマネジメントや調達購買での鉄則です。これは推奨サプライヤというサプライヤの溜まりを持ち、溜まりの間で品目毎、案件毎に競わせていく、もしくは複数サプライヤのシェアをコントロールする手法になります。
しかし、場合によってはサプライヤ毎に得意分野が異なったり、特定の技術が必要なモノで特定のサプライヤしか作ることができない、等の理由から、1社しかできないことが少なくありません。
以前このメルマガでも何度か取上げましたが、
(「購買プロセス/契約方法を変えるという選択肢」~2015.12.16号~)
http://www.insightnow.jp/article/8924
(「入札制度の限界と競争環境の整備」~2013.8.20号~)
http://www.insightnow.jp/article/7871
公共調達で一般競争入札を採用したものの一社しか入札がなく競争が行われなかったというのは典型的な事例です。また落札したもののその企業に経営資源や技術力がなくプロジェクト自体が頓挫するケースなども多く見られます。
以前にも申し上げましたが、これは「比べられないものを無理に比べようとするから」でありそのために「無理や歪みが生じている」のです。そりゃあ競争できればいいに決まっています。しかしどうしても競争できない場合も少なくありません。もし競争できないのでしたらコスト分析やサプライヤの工場原価の分析などを行っても、価格の妥当性を検討することは可能です。もっと言えば、一社しか対応できない「サプライヤ」との関係性をいかに保っていくかが正に調達購買部門の腕の見せ所と言えるでしょう。
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2016.09.20
2017.07.11
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。