1988年、デンマークでは「プライエム」(老人介護施設)の新規開設を禁止した。その理由とは?
デンマークの元福祉大臣、アンデルセン氏は次のように述べている。
「プライエムの多くは孤立し、不毛で活気がなく、いる人たちの権威を失わせるようなミニ病院、いわば人生の最期を迎える前の待合室になっていた。プライエムに住む人々にとって、その主体としての生活はプライエムに引っ越した日を境に幕を閉じた。多くの人はこの状況を、施設のまた施設文化の避けられない結果と考えていた。」
プライエムは、老人介護施設。1988年、デンマークでは施設のこのような状況と、高齢化率の上昇による財政逼迫を背景にプライエムの新規開設を禁止したが、その当時を振り返って述べた言葉である。そして、「出来る限り長く自宅に住み続けるために、早めに住み替えること」を奨励する政策に舵が切られる。プライエムという「施設」ではなく「高齢者住宅」を整備し、同時に在宅介護が行き届く体制を整えた結果、現在では55歳から70歳くらいまでの早めの住み替えが一般的であるという。
「自宅に住み続けるために、早めに住み替える」は、一見わかりにくい。意味は、こういうことだ。仕事や子育てが中心だった現役時代の家は、身体的な衰えや家族数・ライフスタイルの変化などから事故の危険や孤独・虚弱化を進めてしまう可能性があるので、高齢者にとっては「不適切な住宅」である。従って、高齢期を活き活きと健康に暮らすためには、高齢者の身体的・精神的状況に見合った住宅、自立生活への支援があり、社会との交流も維持される住宅に早めに住み替えるのが重要である。要するに、自分の家で暮らし続けるには(=「施設」行きにならないためには)、高齢期に見合った家に住み替えるほうが良いというメッセージだ。
この政策は、「高齢者福祉の三原則」と「住まいとケアの分離」をコンセプトとしている。
「高齢者福祉の三原則」は、一つ目が「生活の継続性」で、出来る限り在宅でそれまでと変わらない暮らしができるよう配慮すること。二つ目は「自己決定の原則」で、高齢者自身が生き方・暮らし方を自分で決定し、周囲はその選択を尊重すること。三つ目は、「残存能力の活用」で、本人ができることまで手助けしてしまうのは能力の低下につながるから、やってはいけないということ。まとめれば、支援があれば在宅で生活ができる人まで施設に集め、受動的な立場に立たせた上で、一斉に過剰かつ画一的なサービスを提供するようなことは、すべきでないという内容だ。
高齢社会
2016.02.26
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。