三菱自動車の不正燃費問題の背景には自動車市場と自動車そのものの2つの構造変化があり、その構造変化に追従できていないことがあるというお話。
今回の事案はこういう自動車市場の構造変化の中で起きたことです。もしRV全盛の時代であればそもそも燃費に厳しい目標を立てることも燃費を偽装することもなかったでしょう。
(90年代とかの過去にもこういう不正問題がなかったかどうかは不明ですが)そういう意味では自動車市場の構造変化に追いついていけなかった企業による無理を不正で隠そうとしたというのが今回の事案の背景にある問題なのではないかと考えられます。
もう一つの視点は自動車そのものの構造変化です。言うまでもなく現在の自動車はどんどん技術が複合化しています。特にハイテク技術に関しては、マイコンから始まり、エアバッグ、ハイブリッド車用バッテリー、ADAS、今後の自動運転化に伴い、益々技術は複合化する方向です。一方でこの複合化する技術を完成車メーカーが全て開発している訳ではありません。ADASなどはむしろシステムサプライヤがその開発の主体を担っています。(あくまでも推測ですが。。)
完成車メーカーはシステムサプライヤが開発したシステムを買ってくることになりますし、実際に現状のADASはどこの完成車メーカーの車でも同じような機能が同程度の価格で装備されています。これらの技術や機能は部品メーカーのノウハウであり付加価値と言えます。
自動車部品メーカーは完成車メーカー以上に系列の崩壊や統合によるメガサプライヤ化が既に進んでいます。このような自動車の構造変化でメガサプライヤの力はますます強くなっています。完成車メーカーは改めてサプライヤーとの関係性を定義し直す必要も出てくるでしょう。このような自動車そのものの構造改革は製品の競争優位が完成車メーカーから部品メーカーが持つことのきっかけになります。自動車メーカーは今まで車の基本性能やデザインを競争優位の源泉にしてきました。三菱自動車では
その象徴がRVやラリーカーだったのです。しかし、車が売れる競争優位の源泉が基本機能やデザインではなく、燃費、環境、安全、安心、快適などにシフトすることによって完成車メーカーに対して部品メーカーの力が相対的に強くなってきたと言えます。
今後完成車メーカーは競争優位の源泉を確保するために非常に厳しい立場に置かれるでしょう。市場ニーズを満たす競争優位の源泉を直接的に持つ立場にいられなくなれば一層の合従連衡が起こることも予想されます。
以前「異業種競争戦略」をここでも取り上げました。http://www.insightnow.jp/article/7977
深いピラミッド構造と言われ上意下達が徹底されていると言われるこの自動車業界においてもこのような環境変化の元、完成車メーカーと部品メーカーの競争が起きつつあるのです。今回の三菱自動車の問題の背景にはこのような2つの自動車を巡る構造変化があると言えるでしょう。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。