/人権は、『世界人権宣言』で決議された達成すべき努力目標。しかし、権利は国や他人の義務によってしか実現しない。おまけに、人権論の根底には、市民権論、実定法論、自然権論の違いがあり、くわえて、現代社会はもはや自由や平等の調整の余地を失ってしまっており、簡単な問題ではない。/
さらにまた、個人のレベルでも、近年、実定法人権論をはるかに越えて、自然法人権論が爆発的に肥大し、あちこちで摩擦を生じている。たとえば、まずい店の口コミは名誉毀損か。ブサキモに酌をしないのは人種差別か。まずいものはまずい、いやなやつはいや。そんな表現の自由、心情の自由にまで、人権を理由に人権侵害されないといけないのか。どちらの側もとりあえず、人権問題だ、と大声で喚き散らせば、相手がひるむ。それに付け込んで、他人の人権を踏みにじってでも自分の好き勝手を拡大するのは、まさに万人の万人に対する闘争。
人権を大切にしよう。それはそうだ。しかし、そんなきれいごとを口先で唱えるだけで、やり過ごせるほど簡単な問題ではない。これだけ世界が狭くなり、あちこち人間が接しあって暮らしている以上、自由だ、平等だ、と言っても、調整できる余地は、ほとんど残されていない。だれがか動けば、だれかを傷つけてしまう。だが、自分だって傷つけられたままでいたくないから、アクションを起こし、それがまた別の人権問題を引き起こす。殺生して肉を食べているように、それどころか空気を吸うように、我々は、日頃、あらゆることでなんらかの人権侵害をやらかしてしまっていると思った方がいい。他人の自由と平等のための余地をより広く空けてあげられるように、せめてむだに他人の人権を侵害していたりすることがないように、この一週間、身の回り、毎日のことを見直してみよう。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)
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2015.07.17
2009.10.31
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。