2020年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会は、9月1日に記者会見を行い、佐野研二郎氏がデザインした五輪の公式エンブレムの使用を中止し、新たなデザインを再公募すると発表しました。しかしそれだけで、今回の「東京五輪エンブレム問題」は解決したといえるのでしょうか?
つまり政府は、東京五輪・パラリンピックを観光立国の実現に向けた重要な戦略施策のひとつとして位置づけているのです。よって、そのシンボルマークである「エンブレム」も、日本や東京の魅力、文化を世界にアピールするためのツールのひとつとして捉えるべきであり、単に再度公募を行って、「類似デザインのない、デザイン的に優れた作品」を選べばよい、という次元で語られるべきではないでしょう。
またネット上においては、一般の人が制作した新エンブレムのデザインが、数多く公開されています。その殆どに「和のテイスト」が感じられますが、東京五輪・パラリンピックは日本で開催されるため、至極当然のことだろうと思います。
もちろん日本の魅力は、単に「和のテイスト」だけにあるわけではありません。日本の魅力は様々な領域に点在しているわけですから、それらを一度整理してみる必要があるはずです。しかし今回、ベルギーのリエージュ劇場のロゴに酷似した佐野氏のデザインが、審査員から最高の評価を得て選ばれたことから、組織委員会、審査委員会の中で「エンブレムを通じて日本の魅力・文化を世界にアピールする」という共通認識の形成はもちろんのこと、「日本の魅力」の分析についても、十分に検討されていなかったのではないかと感じます
■組織委員会、審査委員会にブランディングの専門家を
以上のように、筆者は「エンブレムの再公募」については、単にエンブレムのデザインを再募集するのではなく、CIの見地から、前述の【CIの実施プロセス(例)】の中に記載されている「1~3の作業」をしっかりと行った後に、デザインの公募を行うべきであると考えています。そのためには、組織委員会の中にCIや企業ブランディングに関する実務経験豊富な人材を投入し、ゼロからCIの作業を実践していく必要があります。
また審査委員会についても、現在はデザイナーばかりで構成していますが、今後はデザイナー以外にブランドマネジメントの専門家や企業経営者など、ブランディングの実務に精通している人材を加える必要があるでしょう。
今回のエンブレム問題は、「ブランディング」に関する実務領域において、日本が後進国であることを世界に示した事例であるといわれても仕方がありません。よって再発防止のためには、組織委員会、審査委員会ともにブランディングの実務経験者をメンバーに加えることが必須であり、併せて標準的なCIの実務プロセスに沿った作業を、しっかりと実践していく必要があると思います。
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2015.07.10
2009.02.10
川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタントの川崎隆夫です。私は約30年にわたり、上場企業から中小・ベンチャー企業まで、100社を超える企業の広告・マーケティング関連の企画立案、実行支援や、新規事業、経営革新等に関する戦略計画の立案、企業研修プログラムの策定や指導などに携わってきました。その経験を活かし、表面的な説明に留まらず、物事の背景にある真実が浮かび上がってくるような、実のある記事を執筆していきたいと思います。