現実の自分は何かと迷い、悩み、揺らぐものである。そうしたとき、自分を導いてくれるのはほかならぬ理想の自分、目的を覚知した自分、全体を冷静に俯瞰する自分である。心理学ではそれを「メタ認知」といい、世阿弥は「離見の見」といった。
私はみずから行っているキャリア教育プログラムの中で、「セルフ・リーダーシップ」というセクションを設けている。セルフ・リーダーシップとは、みずからがみずからを導くことであるが、これを説明するのに私は、「現実の世界で迷い、悩み、揺らぐ自分を、大いなる目的を覚知したもう一人の自分が導く状態」としてきた。これはまさに、セルフ・リーダーシップのためにはメタ認知能力が不可欠であることを言っている。
◆高台にいかに「もう一人の自分」をこしらえるか
さて、冒頭の長沼さんの言葉。彼は結局、優れたプレーヤーというのは、ボールが自分のところに回ってきたときだけ、局所的・分業的に高度な技術を発揮できればよいと考える人間ではなく、ボールがどこにあろうが、ピッチ全体を見渡す視点からゲームを眺め、大局的な判断から献身的に、ときに犠牲的に動き回る人間のことだと言っているのだ。やはりこれも、高台にいる想像上のもう一人の自分が、ピッチでプレーする現実の自分と常に高速でやりとりをしながら、瞬間瞬間にベストと考えるプレーを行うというメタ認知能力を駆使している姿である。
スポーツにせよ、芸術にせよ、そしてビジネス現場の仕事にせよ、高台から自分を見つめるもう一人の自分をこしらえることは、きわめて重要な能力となる。では、その高台のもう一人の自分をこしらえるためには、具体的にどんなことが必要になるのか―――それは次の3つのことがあげられる。
1つめに、飽くなき向上心をもって理想の自分像を思い描くこと。2つめに、関わるプロジェクトに関し、大きな目的(何を目指すのか+なぜそれをやるのか)を持つこと。3つめに、たとえ部分的に関わっていることでも、全体の責任を担うという責任者意識、当事者意識、オーナー意識を持つこと。―――これら3つを意識したもう一人の自分をこしらえたなら、現実の自分を高台から叱咤激励し、きっと自分が予想もしなかった高みに引き上げてくれるにちがいない。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
【個として強い職業人を考える】
2015.07.13
2015.07.21
2015.08.03
2015.08.17
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。