自分自身の評価眼を持て 

画像: N.Muray

2015.08.03

仕事術

自分自身の評価眼を持て 

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

個々人の趣味は多様化しているが、各々が趣味のものを評価する目はむしろ一様化している。他人の受け売りでしかものをみられない場合が多いからだ。

  「私は五大陸の最高峰に登ったけれど、高い山に登ったからすごいとか、
   厳しい岸壁を登攀したからえらい、という考え方にはなれない。
   山登りを優劣でみてはいけないと思う。
   要は、どんな小さなハイキング的な山であっても、
   登る人自身が登り終えた後も深く心に残る登山がほんとうだと思う」。

                 ―――植村直己『青春を山に賭けて』


現代は「個性が多様化する時代」だと言われる。だが、見方によっては、逆に「没個性化がどんどん進む時代」でもある。もっと正確に表現するなら、個々人の趣味は多様化しているが、各々が趣味のものを評価する眼は一様化している。他人の受け売りでしかものをみられない場合が多いからだ。

たとえば、「あの本はベストセラーだから、きっと面白いんだろう」と、売れている本はますます売れていく。書籍の宣伝の常套コピーは「アマゾン売れ筋No.1!」だ。また、行列ができるラーメン店は、「さぞ、うまいに違いない」ということで、さらに行列ができる。そして、「あのセレブが、何々というブランドのバッグを買った」などと雑誌で紹介されるや、そのブランドバッグは翌日には品切れになるという状況が起こる。

確かに、まずは流行に乗ってトレンドを感じておこうという遊び心はあってよい。また、特に若いころはそうやっていろいろなものを手にとって、「もののよさ/わるさ」を知っていくこともよい。問題は、歳を重ねるにしたがって、モノをみる眼やコトを評価する軸が成熟化していくかどうかだ。流行に乗って遊ぶかたわらで、自分だけの「ほんもの」もきちんと選べているかだ。実際のところは、モノやコトの価値をみずからの基準で判断しようとせず、他人の評価や世間の評判に依存する意識が自分のなかで定着してしまっている人が多いのではないか。

その結果として、誰もが同じようなものを手にし、口にし、耳にし、身につけ、同じようにそこそこ満足するという没個性社会ができあがる。

さて、あなたは、自分の基準で「いいものは、いい!」、「世間では見向きもされていないが、こんなに優れたものがここにある!」と言い切れる“目利き力”をもっているだろうか? それは言い換えれば、自分の中に独自の評価眼を養い、他に説明する力があるかどうかだ。

「個として強い」人は、自分の基準でモノや情報を評価する眼を持ち、それがなぜよいのか、よくないのかを語ることができる。そして、世評や流行に関係なく、自分が認める「ほんもの」を味わう楽しみを知っている。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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