2007年は「鉄」にとって変革の年だったのか?

2007.12.27

ライフ・ソーシャル

2007年は「鉄」にとって変革の年だったのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

何を隠そう、筆者は少しばかり「鉄」である。「鉄」つまり、「鉄道ファン」だ。 その鉄にとって2007年はちょっと特別な年であったように思う。 今年を振り返りつつ、最後にイノベーション論で読み解いてみたい。

一方、さらなる一般化もしている。昨年連載が終了した菊池直恵のノンフィクション漫画「鉄子の旅」がアニメ化。2007年6月24日~9月23日に、CSのファミリー劇場で放送された。「鉄子」はかなり一般的な言葉として普及し、2007年の新語・流行語大賞の候補ともなったのだ。この言葉や作品で鉄道の旅に興味を持った人も多い。「乗り鉄」予備軍が増大したわけだ。

こうした断層の拡大をE.M.ロジャースのイノベーション論で考えてみるとさらに興味深い。
「鉄」の歴史は古いが、それがファン層だけにとどまらず、一般に伝播していくことを考えれば理論的な裏付けになるだろう。

ロジャースはイノベーションの普及を、山型を描くいわゆる「S字曲線」で表し、イノベーションを受け入れる層を5段階に分類した。
いち早く飛びつく「革新的採用者(イノベーター)」。吟味して取り入れる「初期少数採用者(アーリーアダプター)」。それに続く「前期多数採用者(アーリーマジョリティー)」。慎重に見極め採用する「後期大量採用者(レイトマジョリティー)」。イノベーションが伝統に変わるまで採用しない保守的な「遅延採用者(ラガード)」。

さて、「鉄」はどこに入るかというと、当然、「革新的採用者」だ。「革新的採用者」の特徴は、特に進められなくても、自分の価値観に合致すれば飛びつくこと。何か新しい商品がでると、特にプロモーションがなくともニュースリリースなどで情報収集し、購入予約をするような行動を取る。いわゆる何かのファン層はそんな行動を取る典型ではないか。
しかし、実はこの「革新的採用者(イノベーター)」だけでは後に続く影響力を発揮できないのだ。間違ったマーケティングのノウハウ本などには「イノベーターを狙え!」などと書いてあるが、ロジャースのフィールドワークによれば、後に影響力を発揮するのは「前期多数採用者(アーリーマジョリティー)」である。
「ごく一般的な人々」は「前期多数採用者(アーリーマジョリティー)」以降に存在する。その人々はアーリーマジョリティーの採用行動を見て、安心して自分たちも同じような行動をするのだ。一般の人には、イノベーターは少々自分たちとは違った存在に見えるのだ。

イノベーターは別にイノベーター以外に何かを普及させようとは思わない。しかし、2007年の「鉄の世界」には、団塊の世代や女性などアーリーマジョリティーともいうべき、新たな層が入ってきた。さらに、鉄道博物館のような、一般の人々がこの世界により興味を持つ装置が完成した。「今まで興味はあったけど、ちょっと踏み込めなかった」とする層もアーリーマジョリティーに加わるだろう。

鉄はサブカルチャー的に、「カッコイイ日本」を海外に宣伝してくれるような貢献はしないだろうが、来年以降、もっと国民の一般的な興味の対象となっていくように思う。
なぜなら、日本ほど鉄道が発達した国は少ないのだから、それに興味を持つのはごく普通のことだろうからだ。一般化すると鉄は嫌がるんじゃないかという心配もあろう。だが、筆者は鉄はそんなに狭小な度量ではないと思っている。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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