「夢は正社員」にならない理由

画像: Tammra McCauley

2015.01.20

ライフ・ソーシャル

「夢は正社員」にならない理由

日野 照子
フリーランス ライター

不評だった民主党CM女性の味方編「夢は正社員になること」は派遣やパートを馬鹿にしている?問題の本質は別のところにある。

【夢は正社員と言い切った政党CMのダメダメ】

 2014年12月、にわかに降ってわいたような衆議院議員総選挙の選挙戦さなか、テレビ放映された民主党CM女性の味方編。(民主党CM

「夢は正社員になること」「安心して子育てしたいです」「お金を貯めて結婚したいです」という3人の若い女性が出てくる。結婚して子育てしたい、という女性がいてもいいが、"働く女性"に「夢は正社員」と言わせるのは、いくらなんでもセンスが悪い。

 案の定、放映直後から、いろいろなところで批判コメントが続出したので、目にしたこともあると思う。いわく、多様性を否定している、非正規をダメなものと決めつけている、正社員を理想化しすぎている、云々。「小さい夢だな」と嘲笑う高度経済成長世代に、「夢が正社員で何が悪いのか」と反論する若者、という派生型も見かけた。

 いまさら、そのまま蒸し返しても仕方がない。このCMは、ターゲットが狭すぎたということと、本質的な問題からズレているという二重苦でダメだったというだけのことだ。

【問題は正社員かどうかではなく、待遇にある】

 総務省の「労働力調査」*1によれば、2013年平均で非正規の職員・従業員は全労働者の36.7%、1906万人おり、その内68.0%、1296万人が女性である。しかし、この中で「正規の仕事がないから非正規」という人は172万人(14.1%)しかおらず、「転職等希望者」も290万人(22.4%)しかいない。素人目にも、テレビCMでアピールするには少ないような気がする。

 そもそも、非正規雇用の女性が、現在の雇用形態についた主な理由を見ると最も多い「家計の補助・学費等を得たいから=328万人(26.8%)」以外の主だった理由は、552万人(42.6%)の人が選ぶ"時間的な自由"*2なのである。非正規雇用の女性の半数以上が35歳以上であり、家事・育児・介護等を支える人が多いと言うさらに根本的な社会問題のせいもたぶんにあるが、働き方の問題で重要なのは賃金より勤務形態ではないだろうか。拘束時間が長くなる正社員が夢には、どう見てもなりえない。

 結局、正社員が夢、という発想が生まれるのは、非正規雇用者の待遇が悪いというイメージだけなのだ。同一労働同一賃金とはほど遠い賃金格差で年収は低く、教育機会も与えられず、虐げられているというイメージ。実際には、女性は正社員でも248万人(24.2%)が年収200万未満であり、雇用形態の問題ではないことがわかる。(ちなみに男性の正社員で年収200万未満の人は160万人(7.1%)しかいない。)夢のはずの正社員の長時間拘束される働き方や、根強い差別待遇の方がよほど問題なのである。

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いつか時代は変わる。言葉は世界を変え、思いは伝播していく。誰かが誰かを抑圧し、搾取する社会を変えたい。

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