「ダイエットとコスト削減は同じです」

2013.06.10

経営・マネジメント

「ダイエットとコスト削減は同じです」

坂口 孝則
未来調達研究所株式会社 取締役

「ダイエットとコスト削減は同じです」なりよ。

それらは両方とも「イベント」である。イベントは一回きりの感動を味わうものだ。だから、長続きはしない性質のものなのである。何かを成し遂げて感動を味わうということは、回帰性がないのである。海外旅行に出かけて感動した国に、再び行くとまったく感動しないことがある。感動や達成感とは一過性のものだ。

人間の脳は、努力して勝ち得た感動は、ふたたび再現しないことを知っている。だから、達成したという感情を抱いてしまうものは、その一度の感動の強烈さゆえに、二度とその努力を繰り返さないように脳が働いてしまうのである。

リバースオークションの有効さは私も賛同するけれど、そのコスト削減が強烈で努力を必要とするものであるほど(ご存じの方は多いと思うが、リバースオークションは事前準備にかなりの努力を要する)、それが定着することはない。努力を要求する方策は、定着せず、必ず消え去っていく運命なのである。

かなり逆説的なことを書いた。しかし、人間はそもそも努力を重ねることが難しい生き物である。だから、努力を必要とする試みは必ず弊履と化す。かといって、私はすべてのコスト削減行為がムダになるといいたいわけではない。自己啓発の名著に「7つの習慣」というものがある。これは言い当て妙だ。それは、人間は「努力する」のではなく「習慣づいている」ことこそ継続できるからだ。

ゆえに、単発のコスト削減施策を勧める人たちには(それが商売ならしかたがないけれど)、多少疑いの目をもって接した方が良い、と私は思う。努力ではなく、達成感でもない。一つひとつのコスト削減額はささやかなものかもしれないけれど、確実に組織にコスト削減の意識を習慣付けるような人たちの声にこそ、耳を傾けるべきだ。

「はい、これやったらいくら削減できんの?」と短期的な効果ばかり求めるのは、ある種の病弊だと私は思う。

短期的なコスト削減効果よりも、組織にコスト意識を根付かせ、習慣づけることのほうがもっと大切だからだ。部員が努力したと思わず、苦労とも思わず、日々の行動のなかから自発的にコスト意識をもった行動を取ること。これこそが重要ではないか。

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坂口 孝則

未来調達研究所株式会社 取締役

大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。

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