世代間対立の原因は、中高年の待遇と、彼らの能力や貢献度の関係が見えないことだ。
(NPO法人「老いの工学研究所」のHPに寄稿したコラムを転載しました。)
若者に比べてれば50歳代、60歳代の中高年が恵まれているのは確かだ。若い頃、会社の成長に合わせて役職と給与が上がっていき、家庭を持ち、財産を作り、今は会社を辞めない限り定年まで安泰である。辞めたあとも年金が受給でき、その給付額は負担してきた額をはるかに上回る。
これらを根拠に、世代間の対立が顕在化しつつある。しかし仮に、若者が中高年のおかげで今の会社も国もあると思えれば、あるいは、自分達がそのような働きができない、力が及ばないということが分れば、若年層に不満や苛立ちは生じないだろう。であれば、世代間対立の原因は、そのような中高年の待遇と、彼らの能力や貢献度の関係が見えないことではないか。
一方、年齢に関係なく働ける社会の実現は重要な政策課題である。これは、「エイジフリー社会の実現」といったきれいごとではなく、高齢者が健康に働き続け、経済的に自立し続けてもらわないと、社会保障費がもたないからだ。公的年金に頼るばかりで、病気がちな老人が増え続ければ、保険料の増額は避けられず、現役世代のやる気を削いでしまうことになる。
だから、定年退職の年齢を65歳まで引き上げることを企業に義務付けることになるが、それだけだと企業が中高年を抱え込む分、新規採用を抑えるので若年層の働く場を狭めてしまうことになってしまう。高齢者に働いてもらおうとすればするほど、若者にとっては「恵まれているのに、引退しない人々」に見えるから、世代間の対立はますます深刻になっていく。
このように考えると、単に働き続ける期間を長くするというのではなく、中高年がその実力を真に発揮し、若者に尊敬されるような仕事をしてもらうことが大切だ。もちろん、経済成長によって雇用のパイが増えるのであれば、それに越したことはない。しかしそれが期待薄に見える以上、中高年に存分に実力を発揮してもらい、年金の給付と負担の割合といった損得勘定ではなく、その存在や能力に対する尊敬の気持ちを若者に芽生えさせることである。
9月17日の毎日新聞の社説で、70歳代の新人小説家が次々と登場しているという話が紹介されている。今年は、75歳の女性が早稲田文学新人賞を受賞、74歳男性が群像新人文学賞の優秀作に選ばれたそうだ。『豊かな読書体験に人生経験が積み重ねられている。現代の社会のあり方に対する違和感や批評精神も感じさせる。講談社が応募を60歳以上に限定したミステリーの新人発掘プロジェクトをするそうで、出版界は高齢者に目を向け始めているようだ。』と書いている。こういった、経験や識見を活かした表現活動は、高齢者の強みだ。文章だけでなく、写真や絵画などにおいても、趣味にとどまらず、もっとプロ的に活動してみてはどうだろう。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。