平均寿命、健康寿命に加え、ビジネスパーソンは労働寿命と貢献寿命と成長寿命を意識すべきである。
日本人の平均寿命(2010年)は、男性が79.55歳、女性が86.30歳で、よく知られるように世界トップクラスの長寿国である。一方、生活の質に注目した“健康寿命”という考え方があり、介護を受けたり寝たきりになったりせず、自立して健康的に日常生活を送ることのできる期間を意味するが、2010年の日本人は男性で70.42歳、女性は73.62歳となっている。
これも世界トップクラスなのは良いのだが、問題は、平均寿命と健康寿命との差が男性で約9年、女性で約12年となっており、これは要介護など支援が必要な期間なので、長くなればなるほど社会保障費などの負担が大きくなることだ。
65歳まで希望者全員を雇用することが、企業に義務付けられるようだ。言わば、定年という“労働寿命”が延ばされようとしている。自分でリタイアの時期を決めることができる人もいるが、多数は法に基づいて定められた就業規則に則る形で終了を迎える。
定年延長に対して、企業経営者が反対の声を上げているが、これは要介護期間が延びる(平均寿命と健康寿命との差が大きくなる)と社会保障費が増えるのと同じ構図で、組織への「貢献」が期待できない人達を雇用する期間が延びると、人件費負担が重くなるからである。つまり企業は(特に反対の声を上げている大企業は)、60歳で既に“貢献寿命”が来てしまっているのに、“労働寿命”を延長されては大変だと言っている。
“平均寿命”を操作できない以上、社会保障費の増大を止めるためには、“健康寿命”を延ばすしかない。同じように、“労働寿命”が義務化されるのなら、企業が人件費の増大を止めるためにできることは、“貢献寿命”を延ばすことだ。
基本的に、定年の法制化は雇用における年齢差別である(雇用と年齢は関係がないという趣旨で、求人票に年齢を記載するのを禁止するのであれば、定年を就業規則で定めるのも禁止するのが一貫性のある姿勢というものだ。)と思うが、年金財政の逼迫度合いを考えれば受け入れるしかないとすると、60歳になっても組織に貢献できるような育成や配置を行うことによって、“貢献寿命”を延ばすより他に方法がない。
“貢献寿命”が60歳を前に終わってしまうという現実は、企業が、採用したら解雇できないという労働規制の存在を知っていたのに、育てる、活かすことに失敗したという面もあるだろう。しかし、ピーターの法則にあるとおり、それぞれ成長には限界があり、出世していってもどこかでそれぞれが能力的限界を迎えて、そのポストに落ち着く。
ビジネスパーソンには、“成長寿命”というものもあるわけだ。成長のための行動を怠れば、早くに“成長寿命”が来てしまい、そうなったらいくら貢献しようと頑張っても難しい。つまり“貢献寿命”も短くなってしまう。“労働寿命”が到来する年齢まで、お荷物にならずに貢献し続けるためには、“成長寿命”を延ばす努力が欠かせないということになる。
高齢者の充実したライフスタイルを提言する、「老いの工学研究所」
教育研修
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。