「転職」という選択肢は、いわば“ワイルドカード”であり、ハイリスク・ハイリターンである。自分の動機がどこにあるのかをしっかり認識して、そのカードを切る/切らないを考えたい。
さて、それで現在の雇用組織内に適切な異動場所や機会がないという場合、いよいよ組織外へ「転職」という選択になります。
転職の動機は人さまざまに生じます。第1に、現職に対する不満からくる動機です。仕事の内容と自分の能力がマッチしていない、給料が少ない、労働環境が悪すぎて身体を壊しそう、上司との人間関係で強いストレスを感じている、会社に将来性が持てない、今の仕事には成長期待が持てないなどです。これらは言ってみれば、〈不満・不遇〉動機です。この場合の転職は、現職から「逃げる」といった色合いが出ます。
また第2として、上昇志向による転職動機があります。つまり、現職環境に強い不満があるわけではないが、もっと自分の能力を高めたり、活躍舞台を広げられたりする先が他に見つかった場合、そこを出たいという欲求です。そこには何らかの建設的な目的が存在します。これはつまり、〈向上・挑戦〉動機といえるでしょう。このときの転職は、現職を「卒業する」といった色合いになります。
さらに第3として、家族の介護のためにUターンをしなければならなくなった、出産・育児を迎えることになり、労働時間の少ない仕事に変えざるをえなくなったなど、自分の意志にかかわらずやむをえない事情が生じた場合の動機もあります。これらは、〈非意志〉動機といっていいかもしれません。このときの転職は、現職を「去る」色合いです。
◆転職は劇薬である。副作用も大きい
転職が1番目の〈不満・不遇〉動機のとき、特に注意が必要です。現職場の不満・不遇解消のために転職することは、それ自体もっともな動機ですし、実際、多くの人が転職によってそれらネガティブな状況を解消する例もあります。しかし、転職という選択を安易な逃げの意識で使うと、デメリットが生じてくることを留意しなくてはなりません。つまり、忍耐強さがなくなり逃避グセがついて、2度、3度と同じような転職を繰り返す可能性が高まってくる。そうなれば、社会が自分を安定性のある人材として評価しなくなるといったデメリットです。それに第一、逃げのみの意識の人は、転職の面接のときにそれが表に出てしまい、強いアピールができません。
したがって、仮にあなたが〈不満・不遇〉のネガティブ要因で転職を考えているなら、同時に自分のなかで、向上や挑戦といったポジティブな理由を見つけることが大事です。転職は、ある意味、「劇薬(あるいは外科手術)による治療」というべき手段であって、即効性がある反面、副作用も強いのです。劇薬にしても手術にしても、身体がある程度健康でない場合には使えないのと同じように、そもそもの自分の意識がしっかりとしていなければ、結局、転職に振り回される結果になります。
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【転職を考えるとき】
2012.05.17
2012.05.11
2012.05.06
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。