販売台数50万台突破だという(ホームページより)。コーヒーマシンとしては異例の売れ行きではないだろうか。その狙いを勝手分析してみよう。
■バリスタの絶妙なプライシング
値段は7,980円。マシンの質感もデザインも先行するネスプレッソやドルチェグストに遜色がないにもかかわらず、非常に安い。これは、「ペネトレーションプライシング」であることがわかる。利益率を低く抑え、シェアを一気に奪取する価格設定だ。
ネスレが売りたいのは「バリスタ」ではなく、「エコ&システム」なのだ。もはやロスリーダーとなってしまったガラスボトルのインスタントコーヒーと中味は同じだが、新たな価値を提供することで価格は守られる。
「バリスタ」と「エコ&システム」の関係はPCのプリンタとインクカートリッジに置き換えて考えるとわかりやすい。プリンタはその精密な機能にもかかわらず、実売価格は極めて安いといえるだろう。それは、利益は専用インクカートリッジで取るからだ。顧客に使い続けさせることで、利益をだす。「アフターマーケティング」という。ネスレの狙いもそこにある。
■「付随的価値」までの設計
商品の価値は3段階に分けられる。手に入れることで実現したい中核的便益。それを実現するために欠かせない実体価値。さらに、全体として魅力を高める付随的価値である。
「バリスタ」と「エコ&システム」の場合、【手軽に飲める本格派家飲みコーヒー】という価値が「中核」だ。そのための実体価値は、7,980円という手軽なマシン価格と、エコ&システムのコーヒーが、食品スーパーやドラッグストアなどどこでも手軽に買えるという利便性が「実体」。そして、パッケージ全体を紙化して環境に配慮し、さらに東北復興支援商品として売上から寄付を行うなどの施策を行っていることが「付随」だ。いかに価値を高めるかを細部まで設計していることがわかる。
■世界に向けた戦略
「バリスタ」と「エコ&システム」に関しては、「ネスプレッソ」や「ドルチェグスト」と異なり、日本発の施策であることが特筆できる。もちろん、日本国内だけでなく世界に広げていこうという意図を持っていることは想像に難くない。少子高齢化/人口縮小という日本市場だけに留まっていては「規模の経済」を発揮することができない。「エコシステム」のさらなる成功を国外に求めていると考えられるからだ。
どのような方向性で展開するのか。「手軽さ」などのポイントでアジアなどの新興国に展開するというのも一手である。しかし、パーソナルユースという点の優位性で日本に続く少子高齢化成熟国を狙うということの方が商品を受け入れられやすいように思える。日本は「成熟市場先進国」という特性を持っている。後に続く国のロールモデルとなり得るのだ。
「バリスタ」50万台。その陰で順調に売上を伸ばしている「エコ&システム」。その日本国内での普及と売上がそこまで伸びるのか。また、世界に向けてどのような舵を切ろうとしているのか。目が離せない商品であることは間違いない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。