ジーンズメーカーのボブソンが5月2日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、6日に手続きが始まった。百貨店などの既存の取引先は打ち切られておらず、営業は継続できるとのことであるが、この後は債権者が納得できる再建に向けた戦略を描くかだ。
顧客のニーズを考えると、もはやジーンズはファッションの中心にはなり得ず、多々あるアイテムの「one of them」でしかなく、高額(従来の7〜8千円)で購入する理由はない。また、ジーンズスタイル以外の選択も多いため、ジーンズそのものに対するニーズは減少している。特に女性のレギンススタイルはジーンズだけでなく、パンツ(ボトムス)縫製メーカー製品を選択しなくなっているため、「顧客消失」という状況に違い。それに対して、男性層には「使い回しがきく」「楽」など、ジーンズ以外のパンツには明確なニーズが健在している。
競合を見れば、ジーンズメーカーにとっては、ボブソンの代表取締役・早瀬氏のコメントの言うように、狭い「パンツメーカー業界」だけでなく、ユニクロやファストファッションメーカーもジーンズ代替としての競合となる。そして、各社はジーンズだけでなく、幅広いスタイル提案と品揃えがある。
では、自社の活かすべき強みと克服すべき弱みは何か。また、KSFは何なのか。
ファストファッション勢のように「規模の経済」を活かして低価格化を図る、調達・生産の量産化を行う技術はないものの、専門メーカーとして、ジーンズのトレンドであるダメージ加工や、ストレッチ、立体裁断・縫製による体型補正などの技術は持っていると考えられる。だとすれば、従来の「定番」に縛られない「スタイル提案」や「機能性訴求」が1つは考えられる。
機能性を高める方向性の問題は、低価格化によってジーンズは極端なまでにコモデティー化し、消費者の関与度が低下していること。「ジーンズで体型補正ができるの!!」というレベルのインパクトがあればヒットの芽はあるが、そうした潜在ニーズを持っているターゲットボリュームは大きくなく、ニッチに留まる可能性は高い。同様に、例えば「iPod収納機能付き」などの旬な機能を付加してもニッチとなると考えられる。
もう一方の可能性として、情緒的価値向上の可能性もあるが、ヴィンテージジーンズはマニア、ニッチの極みだし、デザイナーズがマス的にヒットしたのはバブルの昔日。そもそも、ジーンズへの関与度が低下しているので、通り一遍の情緒的価値では訴求力はない。
ボブソンの早瀬社長の言うように、「総合パンツメーカーとして生き残る」という可能性はどうか。
ジーンズというドメインを越え、広い市場で戦うということは、より多くの競合と戦うことになる。そうなると、より広範なKSFの獲得が必要となる。例えば、流行りのカーゴパンツにしても、シルエットのバリエーションはジーンズの比ではなく、それに素材、カラーもジーンズ以上の幅が必要となる。もしくは、ピンポイントで流行りのスタイルを的中させるノウハウが必要。「にわか総合メーカー」には荷が重いのではないか。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。