住宅メーカー・住友林業には社内公募制度がある。これを使えば年に一度、望む部署に異動できる。ビジネスパーソンのキャリア意識が高まるにつれ、こうした制度を採用する企業が増えてきた。いち早く公募制度を取り入れた住友林業では、毎年新たな職場にチャレンジする社員が現れる。人事部採用担当の幸田も、そんなチャレンジャーの一人だ。
◆契約を取れない営業マン
2000年、21世紀が始まった年に幸田は入社した。ひと通り研修を受けた後、東京エリアを受け持つ支店に住宅営業職として配属される。その後5年の間に、エリア内営業成績ランキング第1位と輝かしい結果を残すまでになった。
とはいえ、最初から順調に成績を伸ばせたわけではない。特に入社3年目にはぶ厚い壁にぶち当たっていた。ところが、あるお客様との出会いが、道を開いてくれた。その後は営業スタイルだけでなく、仕事に対する取り組み方が根本から変わり、成績も一気にジャンプアップする。
「1、2年目までは、先輩がマンツーマンでフォローしてくれました。とにかく先輩の仕事術を盗むことが目標です。3年目からは営業も一人で任されるようになりましたが、まったくダメでしたね」
商談プロセスの中で越えがたいハードルがあったのだ。お客様と打合せを始めるための第一ステップ「申込」はクリアするものの、その先へ進めない。建築請負のゴーサインとなる「契約」にこぎ着けることができなかったのだ。
商談の最初の関門が「申込」である。営業担当は、まずお客様から住まいづくりに関する大まかな相談を受ける。続いて簡単な間取りや外観デザインを提案し、展示場や建築現場へとご案内する。これで納得いただけたお客様からの「申込」を受けて、お客様専任のスタッフチームが編成される。
本格的な打合せは、それからだ。ミーティングを重ね、お客様のご要望を細大漏らさずプランに反映させる。プランは図面に落とし込まれ、あわせて見積りとなる。プラン、図面、見積のすべてに満足していただければ「契約」へと進み、いよいよ建築へと進む。
ところが、当時の幸田は「申込」こそいただけるものの、次の「契約」を取ることができなかった。
苦しむ幸田に追い打ちをかけるように、あるお客様からやり直しの連絡が入った。8ヶ月にも及ぶ打合せを重ね、契約寸前となって「図面をすべてやり直して欲しい」と言われたのだ。
◆住宅営業の本質とは何か
幸田は、お客様のところにすっ飛んでいった。「提案にどうにも納得できない。要望が形になっているとは思えない。全部やり直して欲しい」とお客様。専任スタッフを交え、何度も打合せを重ねてきたにも関わらずである。
自分には無理なのかもしれない。落ち込んだ幸田が口にしたひと言が、お客様を激怒させる。幸田は自らも含む『スタッフの総入れ替え』を申し出たのだ。心機一転、新たなメンバーで再提案を、というわけである。ところがお客様からは「逃げるのか! この卑怯者」と一喝された。
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