文具メーカーが造花を売り、DPE店が中古時計を売る

2011.01.23

経営・マネジメント

文具メーカーが造花を売り、DPE店が中古時計を売る

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 先が見えない時代。既存ビジネスだけで勝負するのではなく、常に新たな成長戦略を描くことが欠かせない。また、生き残りの展開を探らねばならないこともある。では、その時に何を頼りにすればいいのだろうか。

■キタムラの勝算

 キタムラはDPEだけでなくカメラの販売も行なっており、その領域では家電量販店と競合する。しかし、新品だけでなく中古カメラも扱っている点が大きく異なる。中古機に手を伸ばすのは、「安く済ませたい」というよりも、希少なカメラや新品ではとても手が出ないような高級機器を買いたいという購買動機の方が大きい。なぜならば、初心者や一般のユーザーが使用するカメラは今日では新品でも十分安い価格になっているからだ。
 記事では「中古時計は中古カメラと顧客層が重なると見られ、相乗効果が見込めると判断した」と、キタムラの勝算を挙げている。写真のコアなファンはフィルムカメラの名機に固執し、写真はプリントしてこそというこだわりを持つ。属性としては、中高年男性に多い。そうしたキタムラが抱える顧客層は、中古の機械式時計の名機にも手を伸ばすだろうという判断だ。

■まず、既存顧客を見て商機を探るということ

 キングジムとキタムラ。全く業種の違う両社の成長戦略は、どちらも既顧客を基盤として新たな商品を展開するという戦略である。
 成長戦略を考える場合、基本は商品と顧客のかけ算だ。既存の顧客に既存の商品の使用機会を増やしたり、使用用途を増やしたりするアプローチをする「市場浸透」。既存の顧客に新たな商品を使用することを促す「新商品開発」。新たな顧客に既存の商品を提供する「新市場開拓」。新たな顧客に新たな商品を提供する「多角化」の4つだ。経済学者のイゴール・アンゾフが考案した「アンゾフのマトリックス」という。
 文具・ファイルにおいては、キングジムは市場の大半を刈り取り、もはや成長余地がない。DPEにおいては市場自体が縮小して深掘りもままならない。であれば、選択肢は他の3つとなる。
 マイケル・ポーターが上記の4パターンの勝率を検証したところ、市場浸透>新商品開発>新市場開拓>多角化であったという。それはどのような意味を持つのか。
全く新規・新規で勝負をかける多角化は論外として、新たな商品を展開するにしても、既存の顧客を相手にするなら、そのニーズや購買動機を知ることは難くない。勘所も働く。一方、既存の商品を売るにしても、顧客のことがわからなければどう売っていいかは迷う。外しもする。その差だ。

 新たな成長戦略を描こうとしたり、生き残りを図ろうとしたりする場合、ついつい、全く新しい可能性を求めて新たな顧客を獲得しようという意識が働きがちになる。市場自体がどんどん拡大していた時代の名残だといえるだろう。しかし、もはや文具・ファイルやDPEに限らず、拡大し続ける市場は今日の日本にはあまり多くはない。既存の顧客をしっかり見て、そこに活路を見出すことが重要なのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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