「前向きに考えようよ。ポジティブシンキングにならないといけない」という社長がいる。しかしこの言葉の裏には、その人の“弱み”が隠されているのではないだろうか。今回の時事日想は、とある出版社を取り上げ、この問題について考えてみる。 [吉田典史,Business Media 誠]
私は会社員経験の浅かった30代前半までくらいはその世論操作にあやつられ、賃金などについて話し合おうとする人を斜めに見ていた。しかし、ある本を読んでいるときにひらめくことがあった。それは、作家・森博嗣さんの著書『小説家という職業』(集英社新書)。本の中でこういう記述を見つけた。
「ところで、人間というのは、自分が弱い部位を、相手に向かったときも攻める傾向がある。自分が言われたら腹が立つ言葉を、相手を攻撃するときに使う。その言葉にダメージを与える効果があると感じているからだ。したがって、悪口を言ったり、苛めたりする人間は、自分が悪口を言われたり、苛められたりすることを極度に恐れている。苛める方も、苛められて傷つく方も、この点で共通している」(87ページより抜粋)
これは、小さな会社の経営者が使う「前向きに」という言葉に置き換えることができると思ったのだ。確かに彼らは、自分に何かを言ってくる社員を攻撃するときに「前向きに考えようよ。ポジティブシンキングにならないといけない」といった意味合いの言葉を使う。
森さんの考えに従うと、その「前向きに」といった言葉、言い換えれば「後ろ向き」であることがいかにマイナスであるかを経営者自身がよく分かっているからなのだろう。きっと、自分がそのようにレッテルを貼られることを極度に恐れているからこそ、執拗(しつよう)に「前向きに」と持ち出すに違いない。この言葉を全く意識していないならば、わざわざ使うことはしないだろう。
「負のエネルギー」を持っている経営者たち
私が、20~30代でそれまで勤務していた会社を辞めて新たに会社を興す人を観察していると、その6~8割くらいは「過去に傷」があることに気がつく。例えば、上司や役員らとぶつかったり、自分の扱いが低かったりして退職している。
あるいは、子どものころに家庭が不和であったりした人も少なくない。昨年、大手出版社の編集者から紹介されたコンサルティング会社の経営者は30 代前半でありながら、2回離婚していた。大学受験などで挫折を経験している人もいた。少なくとも、一部のメディアが取り上げるような「光り輝く経営者」を私は取材で見たことがない。そのような人も役員や元社員、離婚した相手などから訴えられていて「傷だらけの人」なのだ。
この人たちの多くは、いわば“負のエネルギー”を持っているといえる。だから、そのコンプレックスをカモフラージュするために、ホラを吹いたりして自分を大きくみせようとする。例えば「30社以上の出版社から本を書いてほしいという依頼があったが、断った」と話した経営者がいた。この業界の内情を多少なりとも知る私からすると、それは間違いなく、嘘である。
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