東日本大震災が発生し、1カ月が経過した。景気の先行き不透明感が漂うが、ここにきて震災を口実にした“便乗解雇”が懸念されている。こうした事態に直面しても、会社員は泣き寝入りするしかないのだろうか。 [吉田典史,Business Media 誠]
国内観測史上最大のマグニチュード9.0を記録した東日本大震災が発生し、1カ月が過ぎた。死者・行方不明者の数は日を追うごとに増え、依然として被害の全容が正確に分からない。雇用不安もまた、目に見える形となって現れてきた。
東北の地方紙・河北新報社によると、東北の各労働局への雇用に関する相談は3月28日現在、青森、岩手、宮城、福島の4県で計2万9531件。内訳は、宮城が2万3184件と突出して多く、次いで岩手3750件、青森1354件、福島1243件と続く。経営者と労働者の双方から相談が寄せられ、その内容は賃金や休業手当、解雇、雇用維持などについてのものが多い。
監督署に相談者が押し寄せる
異例の事態とはいえ、労働局や労働基準監督署はこれらの労働相談にきちんとした対応ができているのだろうか。ここ数年、全国の労働局や労働基準監督署の職員らはフル稼働の状態である。2008年秋のリーマンショック以降は深刻な不況により、労働相談に行く労働者らが増え続けている。
例えば、2009年に取材した都内の監督署では年間1100件の相談に対し、10人ほどの監督官で対応をしていた。年間で1人の監督官が100件以上の案件を抱え込む。労使間のトラブルは解決までに短くとも数週間、長い場合は数カ月、時には1年以上かかる。これでは、相談業務は“流れ作業”になっている可能性がある。ましてや震災以降の1カ月間で、それぞれの監督署に数千人が押し寄せている。
厚生労働省はこのような事態を踏まえ、4月5日、宮城、岩手、福島3県の労働局で計300人の職員を増員することを明らかにした。そして岩手労働局は、被害の大きかった陸前高田市で出張労働相談会を開催した。しかし、もともとの体制が不十分である以上、被害の状況いかんでは職員をさらに増やす必要があるだろう。
第三者機関が十分に機能していない理由
今回の震災では、経営難に苦しむ経営者が社員を解雇にすることがありうるが、労基署や労働局が頼りになるのかどうかを社会保険労務士の庄司英尚さん(参照リンク)に話を伺った。
「確かに現地の労基署や労働局は、丁寧な対応が難しいかもしれない。しかし、もともと労基署は民事不介入。解雇の有効・無効を争う場合などの相談にはのらない。相談に訪れた労働者が解雇になったとしても、職員らは労働基準法に照らし、基本的な考え方の説明しかしない」
むしろ、労基署は「今回のような震災の後では、解雇などはやむを得ないだろう」と言葉を濁して、今後の就労支援としてハローワークの支援体制などを労働者にアドバイスすることが考えられるという。
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