ノーガードの殴り合いのような、果てしない値下げ合戦。…といっても、巷を賑わせている「牛丼戦争」の話ではない。「DVDレンタル市場」の話だ。
ゲオの決算報告を(2010年3月)を見ると、今期同社は事業セグメントの再編を行ったことがわかる。「小売サービス事業」として、ゲオショップ、EC事業、宅配レンタル、中古衣料、総合リサイクル。「アミューズメント事業」として、複合アミューズメント、ゲームセンター、フィットネス、複合カフェである。(それ以外に不動産事業もある)。詳細は不明であるが、自社顧客に同一事業内、もしくは事業をまたいだ商品・サービスの利用を促進するための体制作りであることが推測できる。即ち、アンゾフのマトリックスにおける、既存顧客に新商品を提供・利用させる「新商品開発」である。
既存の商品、メイン商品が低利益なら、他の事業で収益を稼ぎ出す。利益のでない牛丼戦争において「すき家」を運営する「ゼンショー」が「牛丼チェーン」というドメインを拡張して、「手軽に利用できる外食事業」というドメインで成功している例に似ている。ゲオの「小売サービス事業」と「アミューズメント事業」は、いわば「日常的なちょっとした楽しさを提供する事業」というドメインで、自社グループの顧客に提供すべき商品・サービスを開発しているのではないか。
体制作りはCCCのお家芸でもある。新たな顧客に自社商品を提供する。古くはTSUTAYA入会時に個人情報使用のpermission(許諾)を取得し、他社の販売促進DM(ダイレクトメール)の発送代行を行うサービスがある。自社の顧客DB(データベース)を利用し、従来の「個人顧客(B to C)」ではなく、新たな顧客層である企業顧客(B to B)にサービス利用費用という新たな商品を販売する「新市場開拓」である。
その延長線上にあるのが、今日同社が最も力を入れている事業の一つである、「Tポイントカード」だ。自社及び提携企業で顧客を囲い込んで相互に送客をして利用促進を図るその取り組みは、相互に新たな顧客に自社商品を提供する「新市場開拓」である。
ゲオの「新商品開発」による、自社顧客のグループ内回遊の収益向上策。CCCのDM事業におけるやTポイントカードによる「新市場開発」でグループの収益を確保する一方、本業のレンタル事業においては、「発掘良品」のような既存の深掘りを行って低価格戦争を乗り切る「我慢」をしているのが、DVDレンタル業界の今日の風景であるといえるだろう。それは、映画・映像コンテンツによる配信のインフラ整備、顧客側のデバイス(端末)の普及という、今日の姿と環境が激変するまで続くかもしれない。
21日の日経新聞の事では米国のような劇的な市場の構造変化は起きないとの見方と同時に、CCCが5年後を目処に映像配信を300億までに育てたいとしている旨を示し、シャープの端末に来春から映像配信を開始する予定を紹介している。
環境激変の時はいつやってくるのか。意外と近いかもしれないし、まだしばらく先かもしれない。記事ではその時まで、店舗事業との両立が課題と締めくくっているが、それは両社にとって、息を止めてノーガードで殴り合いを続けなければならないことを意味している。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。