うまく行っている時は何ら心配は要りませんが、真剣に取組めば取組むほど失敗や苦境に立つ可能性も高まります。不利な戦況において自らを律する心構え、ストレス耐性の付け方を、カウンセリング理論から考えてみましょう。
人間生きていれば困難や不快な状況に陥ることは当たり前です。特にエグゼクティブやビジネスエキスパートともなれば、未開の野を切り拓くかのような絶え間ないストレスにさらされ続けるのが普通になってしまうこともあります。
精神的なタフさが要求されるプロフェッショナルではあっても、健康な人も風邪をひくことがあるように、精神的に弱ること自体は異常でも何でもありません。
よく「気持ちが落ち込んだので鬱状態だ」などという人がいますが、「気持ちが落ち込む」のは極めて健康な人間の心理状態です。嫌なこと、辛いことがあって「気持ちが落ち込む」のは正常な心理状態です。
一方、思い当たる節もない、特別な理由もなく気持ちが憂鬱になる、こんな時は抑うつ状態が考えられ、場合によってはうつとなることもあります。うつは完全な病気です。
つまり仕事でトラブル、うまく行かないのであれば、気分が晴れ晴れする訳がないのです。理由が明確な「不安」は健康な証拠だと、強く認識して下さい。
さて、心理学では論理療法というアプローチがあります。
そもそも異常な心理状態の時は、「敵に襲われる」とか「人が悪口を言っている」等、正常では考えられない発想をしてしまうものなのです。
うつ病になると、何をやってもうまく行く気がしない、そもそもベッドから起き上がろうという気にすらならない、等どんどん自らを苦しめる「間違った発想」が行われます。究極は「死んだ方がまし」という自殺念慮になります。
もちろん世の中には死より耐え難い苦しみもあるのかも知れません。それが本当に「耐え難い」苦しみであれば、「死んだ方がまし」は実は理論的に正しい可能性があります。例えば捕まったスパイが、残虐な拷問で生き地獄をみるくらいなら毒を飲んで楽になろう、というのは良いかどうかは別に、一つのロジカルな発想とも言える訳です。
しかし平時において「自分は生きる価値がないので死んだ方がまし」となりますと、どうでしょう。なぜ価値がないのか、ロジカルな説明が出来ないのにそう思うのは「異常」な行為です。
このような間違った発想、不合理な思い込みを、論理療法では「イラショナルビリーフ」と呼びます。
ビジネスプロフェッショナルが不安に襲われた時、ぜひその理由を考えて下さい。理由が思いつくようであれば、決して病気ではありません。
当然の心理状態です。健康な精神状態ですから、事態の好転や、思いがけない時機の到来、さらには想定外のラッキーパンチ等、「うまく行く」可能性は十分あります。
「だめかな、だめかな」と思って下す判断が失敗しがちなように、気持ちが上向いていないとより失敗する可能性は高まります。自分が気持ちが下がっている、と感じた時はまず、「自分は精神的に正しい状態にある」ことを強く認識して下さい。
実際に認知療法では、イラショナルビリーフを、カウンセラーとともに、一つ一つ検証したり、克服して行きます。一人で考えていると息詰まる思いだったものが、人とともに考えるとたいしたことはなかった、心配しても意味が無かった、等と気付くこともとても多いものです。
ロジカルシンキングは、実は精神衛生を保守するためにも効果的なものなのです。
ストレスコーピング
2012.05.18
2010.10.13
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。