「女も食するスイーツといふものを、男もしてみむとてするなり」と紀貫之の土佐日記さながらに、今日、仕事帰りの男性がコンビニでスイーツを購入していく姿は珍しくない。一方、オヤジの牙城であったロードサイドの紳士服チェーンの店内でも、若者の姿が散見されるようになり、あまつさえ妙齢の女子フレッシャーの姿さえある。
日本の消費者は、ある意味「洗面器の中の水」のような行動をとる。傾けば一方にざーっと寄る。反対に傾けば、もう一方にざーっと寄る。華美なバブル消費と清貧なデフレ消費とを行き来したこの20年間の消費。水面から底まで、全ての水=消費者が同様の動きをしていたのは、「一億人の国民が全て中流であるという幻想」に浸っていた時代だ。人と同じものを求め、手に入れて満足し、差別化よりもむしろ同じであることを好む。高度成長期からバブル経済の前まで。いや、バブル期も、こぞって「華美な消費」という流れが水面から水底まであった。
では、今、日本という洗面器の中の水はどのような状態にあるのか。
昨今の経済状況のなか、高級専門店で「価格も高くて価値も高い=高価値戦略」の商品を購入する人は少なくなっている。本当に「価格も安いが、価値の低いもの=エコノミー」の商品しか購入できない層も少なくない。その環境で、「安い価格で中くらいの品質の商品を提供する」という「グッドバリュー戦略」がウケるのはアタリマエだ。ケの日にはスイーツはコンビニで。普段使いのスーツなら紳士服チェーン店で購入する。
しかし、その中にも、少なからず「もう少しいいものが欲しい!」という層が存在し、購入する能力(購買力)を有している層も確実にいるのだ。ケの日に高級スイーツや普段使いに高級スーツを専門店で買うようなことはしない「賢い消費」は身についている。かといって、もう少しいいものが欲しい。もう少しこだわりたい。そんな層が、洗面器の波立つ表層の下にはいたのだ。
今日、洗面器の海の中にも実は複雑な流れができている。その流れを細かく読む。それは、マーケティングでいう、市場の細分化=セグメンテーションなのである。その巧拙が、ヒット商品として日の目を見るかにかかっている。底流の動きを浮かび上がらせ、その層のKBF(Key Buying Factor=購入理由)にミートするものを開発することができた企業が成功を享受するのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。