「女も食するスイーツといふものを、男もしてみむとてするなり」と紀貫之の土佐日記さながらに、今日、仕事帰りの男性がコンビニでスイーツを購入していく姿は珍しくない。一方、オヤジの牙城であったロードサイドの紳士服チェーンの店内でも、若者の姿が散見されるようになり、あまつさえ妙齢の女子フレッシャーの姿さえある。
さて、コンビニスイーツも紳士服チェーン店も、年齢や性別という属性・セグメントを拡大したわけであるが、昨今の流行は「チョイ高」であるという。「低価格で最高の品質を提供する」という「スーパーバリュー戦略」は理想であるが、そうしたプライシングやポジショニングを実現するのは極めて困難だ。目指したのは、「中くらいの価格だが、(最高の価格に匹敵する)最高の品質を提供する」である「高価値戦略」である。
例えば、コンビニスイーツをブラインドで試食した人は、口々に「専門店と区別が付かない」という。しかし、価格は300円近いものも少なくない。紳士スーツはこだわりの高級素材と縫製。価格は7~8万円を超えるものも多い。しかし、売れているという。
今年の4月~5月頃にマスコミに頻出した「節約疲れ」というキーワード。ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングが、売上高、営業利益で中間期として過去最高を更新した2010年2月中間連結決算の翌月、失速傾向を見せた。さらに、日本百貨店協会が各社の売上げ下げ止まりや高額品に動きが見え始めたことなどを発表したことから、各メディアがこぞって取り上げたキーワードだ。
今日、「節約疲れ」のキーワードはほとんど目にしない。いつまで経っても消えない景気の二番底懸念や、本格的な浮上は見られない。不安定な政権、円高、それにともなう産業空洞化と雇用の不安。今年の前半、世間の多くが節約に疲れていたのは事実かも知れないが、そのキーワードは、もはや世間の記憶からも消え失せつつある。
では、「節約に疲れた人々」ではないとしたら、「チョイ高」を購入している人は誰なのか?
スイーツにしろ、紳士服にしろ、とにかく高級な専門店を利用するのが正しいという志向は、バブル崩壊以降きれいさっぱりなくいなった。失われた「10年」のキーワードは「華美な消費」の反動でもある「賢い消費」であった。そして失われた「20年」に突入している今日。かつて「賢い」であった行動は、もはや「アタリマエ」になっている。「華美を廃し、きちんと考えて購買行動をしている」。そんなことを誇れば、「そんなのアタリマエじゃないの。アンタ、バカなの?」といわれること必定だ。ハレの日とケの日は峻別され、ケの日の消費も厳選される。
だがしかし、である。
売る側(に、荷担しているマーケターといわれる我々も含めて)は、まだまだ、生活者、購買顧客、を細かく見る。セグメントするということを怠っているのではないだろうか。
「バブルだ。みんなが高いものを欲しがっているから、それを作って売ろう。」
「バブル崩壊だ。デフレだ。みんながお金がなくて、安いものを欲しがっているから、それを作って売ろう。」
ちがう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。