本日、9月7日10時より全国発売が開始された、吉野家「牛鍋丼」。自社顧客の競合流出防止と、競合顧客吸引という、まさに社運をかけた新メニュー。人気の牛豚丼、豚生姜焼き定食などの豚メニューも販売を停止して「牛」にかける意気込みを見せている。果たしてその実力はいかほどか?
■具材
肉以外の具材に言及する。まずは注目の牛鍋丼。見た目もしらたきが目立っていなかったように、味や食感もそれほど主張するものではなかった。一切れの豆腐は箸休めというか、アクセントとしてはありだと思うが、それもさほどの存在感を示すものではない。タマネギの量もあまり多くない。故に、肉の量の少なさも相まって、具材全体として、若干ボリューム不足を感じる。肉以外の具材を増やすと「肉が少ない」と批判されるかもしれないが、新しいコンセプトの「牛鍋」なのであれば、その他具材をもう少し濃い目に味付けし、量を増やして主張させてもいいのではないかと思った。
松屋・吉野家両社の牛丼に関しては、今回、タマネギについて思わぬ発見をした気がした。従来は、吉野家のタマネギは火が通りすぎでクタクタになっていて、食感や味わいが少なく、松屋のタマネギの方が美味しかった。それが、今回は写真でもわかるように、見事に逆転している。松屋は250円・値引きキャンペーン対応で大量仕込みをしていることが原因で、逆に吉野家は、定価で売る牛丼の状態を良くするべく、オペレーションを改善したのではないかと筆者は推測した。
■たれ(味付け)
味付けは吉野家牛丼のタレの味を標準と考えると、牛鍋丼はそれより甘い味付けにして、「牛鍋」らしさを強調していると事前に報道されていた。その味は、食べ比べれば確かに甘いが、単独で食べればそれほど甘みを感じるわけではない。甘さより、意外にしっかりした味付けといった印象だ。9月2日に行われた吉野家本社でのメディア試食会で、多くの記者が「すき焼き風にもなるので、卵がよく合う」と記事にしていた。確かにその通りで、夏期の持ち帰りでは卵は購入できないのだが、それが非常に欲しくなった。味付け的にも、具材の少なさをカバーする意味でも。卵の販売でプラス70円という、吉野家のクロスセル戦略は奏功するように思う。
食べ比べてみると、昨年、伝統のタレの味を変更したという松屋の味付けが最も甘いのがわかる。甘い味付けと吉野家がいっている牛鍋丼よりさらに甘い。そして、味も濃い。しかし、松屋の店内で牛丼を食べている客は卵を注文する比率はあまり多くない。味噌汁も付いていて、味も濃く、定価320円(キャンペーンで250円)で満足してしまうため、あえて追加コストを払わないということだろうか。味付けの差は、どのように顧客満足を図り、どのようなオーダーを獲得するかという設計にも関わっているのだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。