部課長は単に管理監督者であるより、もっと多面的でふくらみのある存在です。一職業人、一人間の立場から部下を大きく見守ってやらねばなりません。業務の目標でなく、人生の目的を対話によって引き出してやる―――そんな作業も必要です。
というのは、キャリアは10年、20年単位で展開されるもので、目先の上司/部下関係というのは仮の関係でしかないからです。10年後、20年後、部下や後輩たちが自分の配下から社内外に巣立っていき、仕事のパートナーとなったり、同志となったり、あるいは逆転して上司になったりすることは普通に起こりえます。実に「後生畏る可し」(こうせいおそるべし)なのです。自分が育てた人財たちは、将来、自分を押し上げてくれる存在に十分になるのです。
人をさまざまに育てた部課長であればあるほど、自身のキャリアは裾野が広くなると考えてください。裾野の広い山は高い峰を形成することができます。「情けは人のためならず」ということわざがありますが、同様に「育成は人のためならず」と言えるでしょう。人を育てたことは、巡り巡ってすべて自分に返ってくるのです。
◆結局、一人間としてどんな姿を見せるか
そして4つめに部課長は、「職業人のロールモデル」として部下たちから模範とされる働き様、生き様を体現する役割を負っています。私たちは知識や技能は書物や自己の経験から学ぶことができます。しかし、 「いかによりよき職業人となるか」については、人を通してしか学ぶことができません。その場合、最も大きな影響力を持つのが日常の職場で身近に接する部課長なのです。
部下や若年層社員から「ああいうマネジャーになりたいな」、「あんな存在になれればいいな」、「本当のプロフェッショナルって、ああいう働き方のことなんだろうな」と思われる部課長が多くいる組織は、人財輩出組織になるでしょう。逆に、若手から「ああはなりたくないね」、「給料泥棒の管理職が多いんじゃないの」、「この会社で働き続けても先が見えてるな」といった視線で見られる部課長が多い組織は、早晩、人財流出組織になってしまいます。
最後5つめは「良識・見識ある一人間」としての役割です。上司と部下の付き合いは、最終的には一人間同士の付き合いに帰結します。世間話や趣味話といった雑談のときにでも、部下は、自分の上司がどのような観で物事をみているか、どのような視点で評価しているかをきちんと観察しています。また部下は同時に、上司が一私人・一生活人としてどのような価値を軸にして人生を送ろうとしているのかも鋭く見ています。つまり一人間としての良識・見識は信頼に足るものか、生き方の基軸は魅力的かなどを感じ取ることにより、最終的に上司との付き合うレベルを決めているのです。
次のページ◆「自分は何によって憶えられたいか」~人生の目的を言葉...
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
【部課長の対話力】
2010.08.23
2010.08.17
2010.08.10
2010.08.04
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。