部下を的確に動かし指示・命令に長けようとする部課長は、部下を自分に従わせる。部下の貢献意欲を湧かせ組織を生産的にしようとする部課長は、部下を目的に従わせる。
◆指示・命令に劣らず大事なコミュニケーションがある
上司が部下とやりとりするもろもろのコミュニケーションは何のためのものか?―――こう問われたとき、みなさんはどうお答えになるでしょうか。おおかたは「そりゃ決まっている、事業組織においては、指示・命令の伝達が生命線なんだから、そのためにコミュニケーションをしている」そんな答えになるでしょう。
確かに「伝達のコミュニケーション」は第一に重要なことです。では、ほかに何があるでしょうか。このことを考えておくことはとても有意義ですので整理してみましょう。
事業組織において、上司・部下間のコミュニケーションは次の3つに分けられます。
1) 「情報伝達」のためのコミュニケーション
2) 「貢献意欲喚起」のためのコミュニケーション
3) 「関係性融和」のためのコミュニケーション
1番目は冒頭に述べたとおりです。上司は指示や命令、経営側の意思など諸情報を伝達するためにコミュニケーションを行います。ひとつ飛んで3番目、上司は部下とスムーズな人間関係をつくるために私語や雑談をします。これが関係性融和のためのコミュニケーションです。
そして忘れてならないのが、2番目の「貢献意欲喚起」です。つまり、上司は部下の1人1人が「事業目的に向かって貢献したい」という気持ちを呼び覚ますためにコミュニケーションをしなくてはならないのです。
経営学者であるチェスター・I・バーナードは『新訳 経営者の役割』の中で、組織を成立させる3要素として「コミュニケーション・貢献意欲・共通目的」を挙げています。この3要素は深読みするといろいろあるのですが、ともかくこれらのうちどれを欠いても組織たりえないと彼は論じました。
なるほどバーナードの示すとおり、組織は単に人の集まりではなく、その集団が掲げる目的完遂のために貢献したいという「意欲の集まり」「やる気の束」ととらえるのは、ひとつのうまい定義です。企業とは、文字通り「業を企てる」です。事業目的を完遂させようという意欲を持たぬ人間の集まりは、烏合の衆であって、そもそも存続すら危ういでしょう。
◆部下を自分に従わせるのではなく、目的に従わせる
往々にして、部課長というものは、1番目の情報伝達のコミュニケーションに偏りがちですし、そこに自分の存在意義を込めようとします。指示・命令の正確な伝達と徹底こそ部課長の役目として、権力の上下関係を後ろ盾に、部下を自分に従わせようと躍起になります。そして、部下が従順に従えば従うほど(あるいは従うふりをしたとしても)、部課長はそこにある種の安堵感を覚えるものです。
しかし本当のところ、部下は仕事上の家来でも子分でもありません。意欲喚起のコミュニケーションを十分に知っている部課長は、部下を自分に従わせようとするのではなく、目的に従わせようとします。つまり目的完遂のために彼らをどう貢献させようか、その貢献過程で彼ら自身が成長を得られるにはどうはたらきかけをすればよいか、について頭を巡らせます。
そうした部課長は、部下に対し「なぜ、あいつは俺の言うことをきかないんだ」とイライラはしません。「あいつは俺の言うことをきかないが、反骨エネルギーは持っている。そのエネルギーを目的に結び付けるにはどういう刺激を与えればいいのか」、そういう発想になるのです。
次のページその上司の語る力、想う力、人間的な包容力、根気が問われ...
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
【部課長の対話力】
2010.08.23
2010.08.17
2010.08.10
2010.08.04
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。