「顧客接点における“コミュニケーション”をコンセプトとした」。 2010年8月10日、JR東日本のエキナカで約1万台の飲料自動販売機を運営するJR東日本ウォータービジネスの「次世代自販機の開発経緯および概要説明」の記者会見。社長の田村修氏はそう語った。
液晶画面の表示は輝度が高く、画像も精密できれいだ。記者会見の説明通り、利用者が近くにいない時には、今の季節は涼しげな水の画像などが飲料の購入を誘う。広告スペース、デジタルサイネージとしての機能だ。
利用者が近づくと、商品一覧の「ストアモード」に切り替わり、センサが顔認識した属性に応じた商品にお勧めマークが表示される。デモンストレーターの20代女性にはジャスミンティーなど3商品が推奨された。40代男性の田村社長がデモを行った時には、缶コーヒーなどが推奨表示された。
画像にタッチして商品を選択すると、画面に商品が大写しされ、確認が促される。現金の投入か、Suicaのタッチで購入が確定する。購入確定すると、自販機のキャラクターの表情などが映し出され、購入のお礼のメッセージなどが表示される。(写真:田村社長と決済後の表示)
購入前後の、何気ない一連の流れだが、筆者はそこに、従来になかった自販機との新たな関係性を見た。
担当デザイナー・柴田文江氏のコンセプトは「BoxからBoardへ」であったが、確かに従来の自販機は駅のコンコースやホームに置いてあるだけの「箱」だった。ここのところ連日の猛暑で、存在感が増している気もするが、用のない時には視界にあっても意識もしない。それが、離れたところから魅力的な映像で誘いかけてくるのである。
お勧め表示も面白い。近づいて認識された時点で、初めて表示されるのだ。自販機に限らず、様々な展示商品に「オススメ!」とか「大人気!」とかいうPOPが掲出されている例は多い。「何の根拠でオススメしてんだろう?」とか、「大人気ではなく、売る側の気持ちではないのか?」と思いつつも指名買いする意志がない時には参考にしてしまいがちだ。それが、自分が近づいて初めて、「自分へのオススメ」がなされると、その意義はさらに高まる。「顔認識の精度は性別94%、年代(+-10%)75%。複数人筐体前にいれば、一番近い人を感知する。完璧ではないので、お勧め表示は、ある程度当たり障りのないものにしている」(記者会見での説明)というが、もっと精度が高まって、そのロジックが利用者に認知・理解されれば、さらにお勧めを受容し有効に活用されることになるだろう。
購入後のお礼表示だけは、キャラクターも含めてもう少し工夫の余地があるように感じる。それでも、「ゴトン」と商品を落下させるだけか、「ありがとうございました」と少し電子的なトーンの女性の声が流れるだけの従来機より可能性を感じる。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。