業績好調のモスバーガー。ヒット商品に恵まれたことがその主因だが、実はそればかりではない。
ご当地バーガーとラー油バーガーは何が違うのか。
「おなじみの地元メニューはバーガーになり得るのか?」と興味喚起する構造は、「中華食材のラー油がハンバーガーに合うのか?」という意外感を持たせて試したくなるポジショニングの演出と同様だ。
では、ターゲットは誰なのか。大ブームのラー油とテレビコラボ。それに飛びつくのは、やはり流行に敏感な層であることは間違いない。しかし、販売再開に際しては、いわゆるイノベーターやアーリーアダプターは既に一度お試し済である可能性も高い。だとすれば、今後開拓できるのはマス的な流行を追う傾向が強い属性を持ったアーリーマジョリティー以降の「一般大衆」だ。流行敏感層には新発想の商品が必要だ。それが「ご当地バーガー」なのである。
両商品において決定的に違うのは、バリューチェーン上の原材料の確保というプロセスだ。ラー油バーガーの販売再開は、ニュースリリースに<なんとか100万食分の食材を確保できました>とあるように、大ヒット商品であるだけに大量仕入れが欠かせない。ご当地メニューは各メニュー、各エリアで分散仕入れができるため食材品切れのリスクは少ない。
広告・マーケティングというプロセスも全く違う。ラー油バーガーはタイアップ元のテレビというマスメディアを用い、さらにネットでの大規模な口コミを促進する必要があった。ご当地メニューは現地の店舗を核とした地道な告知、小規模な口コミが販売エリア内に広がれば事足りる。地元密着は元々モスバーガーの得意とするところである。
モスバーガーでは「身近。ワクワク。笑顔。」をスローガンとして、特に地域メニューの開発に力を入れて3年目となっている。上記の通りバリューチェーン上の手堅さもあり、地域密着は同社の得意とするところであるが、リスク対応という意味でも優れた点がある。
大ヒット商品を狙って満を持して準備をし、一発外したらダメージは大きい。その点、地域分散であればリスクは極小化できる。では、地域でブレイクしたらどうするのか。同社の地域メニュー展開3年目にして今年初めての試みがある。
<各バーガーとも、それぞれのエリアでの限定発売という“レアもの”だが、8月19日(木)・20日(金)の両日は、モスバーガー「大崎カフェ店」(東京都)と、「四条河原町店」(京都市)にて、全メニューが食べられる先行発売が決定>(東京ウォーカー)だという。
まずは、都市部で「お披露目」をしておき、地域で大ヒットすれば「地方発全国区」へと展開させる意図も見える。
ハンバーガー業界の強大なリーダー企業である日本マクドナルドは米国式大型バーガー「クォーターパウンダー」や、そのバリエーションメニューである「ビッグアメリカ」を大ヒットさせ、この夏、業際を超えてケンタッキーフライドチキンにも「チキン戦争」を仕掛けた。
モスバーガーはハンバーガー業界では第2位とはいえ、マクドナルドとは全く規模が異なる。あえてチャレンジャーするのではなく、ブームに乗りテレビとコラボして期間限定ヒット商品を作り、一方で地域密着の商品を作る。そのあるときは大胆にして、あるときは手堅いニッチな戦略には学ぶべきところが多い。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。