ANAが世界で初めて機内で注ぐ「樽生ビール」の提供を7月20日より開始する。通常のビールディスペンサーは、高圧ガスの炭酸ガスボンベを使用するため機内に持ち込みができないが、今回は電機メーカーとの共同開発で航空機内用が実現できたという。そのエポックメイキングなマシンで客室乗務員が手ずから注いでくれる生ビールの価格は1000円。果たしてそれを安いと見るべきか、高いと見るべきか。
では、機内という環境はどうかというと、実は1000円のビール以外にもビールは存在する。ANAでは国内線の新サービスANA My Choiceの有料メニューとしてスターバックスのコーヒー300円などとともに缶ビールが500円で販売されている。つまり、生ビールの半額。単に「ビールが飲みたい」という欲求を充足させるならそちらでもいい。
しかし、「ビール」という対象物(ウォンツ)を手に入れたいというニーズの根源を考えるなら、空の上、飛行機の中という非日常的な空間で、さらに気分のいい時間を過ごしたいということになるだろう。そんなときに<この夏、世界初となる航空機内での樽生ビール独特のクリーミーな泡とキーンと冷えたビールの味わいをANA国内線の空の旅でお楽しみください>(同社ニュースリリース)などと誘われたら、つい「一杯ください!」といってしまうだろう。もし、自分が普通の500円の缶ビールで我慢したとして、隣の乗客が生を注文し、うまそうに飲んだら・・・と考えればなおさらだ。それに何しろ<1便20杯限定>なのだ。躊躇していては売り切れる。
つまり、「需要志向の価格設定」には、顧客がその商品にどれくらい価値を感じてくれるのかという「カスタマーバリュー」を想定することが欠かせないのである。
他に手に入れる手段がない飛行機の中という空間で、缶ビールは500円。それより、スペシャルな生ビール20杯限定が倍の1000円。それが安いか、高いかは顧客の価値観に依存する。筆者は自らの価値観からすると、この1000円の生ビールは大人気になると予想しているのだが。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。