「ブライダル専用フォトブック発売」。日経MJ6月25日9面に掲載されたベタ記事だ。6月、ジューン・ブライドの季節。発売元はカメラ・プリント店とあまり珍しくもない記事に見える。だが、その裏に隠されている「世の中の動き」と「企業の戦略」には深いものがあるのだ。
人はなぜ、写真を撮るのか。多くの場合、「想い出や記録を残したい」からだ。それが、ニーズである。その「想い出」や「記録」を留めるための媒体が、従来は写真を焼き付ける感光紙である印画紙であり、それを形にするのがプリントサービスであったわけだ。つまり、誰しも印画紙が欲しかったり、プリントサービスを受けたかったりしたわけではない。当たり前な話だ。
その当たり前な話が前提で、ビジネスを行っていたのがプリント店である。
テクノロジーの変化は時に劇的に業界構造を変化させる。その変化に耐えられず、多くの企業がプリントサービスから撤退や廃業をした。そうした企業を積極的にM&Aして成長したのがキタムラなのだ。
キタムラの戦略は明確だ。顧客の「想い出や記録に残す」というニーズは、プリントしなくともPCやカメラ・携帯の液晶画面で閲覧するという形で実現できる。つまり、従来の印画紙が提供していた、「閲覧する」という価値を液晶画面が代替したのである。しかし、見るには見られるが、液晶画面で1枚1枚見るのは味気ない。画像管理ソフトを使っても、手に取ってみることはできない。そうした、新たなニーズに対応するのがフォトブックなのだ。フォトブックというより心地よい「形」で「閲覧する」ことを実現したのである。さらに、それをどのような形で手にしたいのかという要望に応えるため様々なバリエーションを展開しているのだ。そして、その撮影した画像自体をプロの手で加工・編集するという付加価値をさらに高めたのが今回の「ブライダル専用フォトブック」なのである。
「自らが売っているものは何なのか?」
明らかな衰退期の業界で果敢な挑戦を続けるキタムラの展開は、自らの「売り物」が何なのかを明確に見据えたところから始まっている。
業界構造が、ある日突然変化することはどの業界でもあり得る。そして、それは自社でコントロールすることはできない。自社でできることは、顧客のニーズに再度目を向けて、それをどのように別の形でよりよく実現できるかを愚直に考え、実行することだ。キタムラの展開から大いに学べるだろう。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。