「背景をぼかす。心が動きだす。」などのキャッチコピーで展開する、ソニーαのCM。「背景ぼかしコントロール搭載」を徹底訴求している。その戦略は実にシャープなのである。
しかし、この「背景ぼかし」の機能は、αのだけのオリジナル機能ではない。例えば、筆者も所有している「キャノン・EOS Kiss X3」。ミラーレスではなく従来型の光学ファインダタイプではあるが、エントリーモデルの一つだ。撮影モードを選んで、おおよそのぼけ具合を段階的に設定できる。しかし、少々手間がかかることと、液晶ファインダーでそのぼけ効果を見ながら撮影できるわけではないので、本当の初心者が使いこなすことは難しいだろう。
つまり、ソニーαは、多くの初心者がやってみたかったことを、とにかく手軽に実現できることに注力しているのだ。そして、その1点をCMで、浅野忠信と北川景子実演させて、繰り返し繰り返し訴求している。それ以外の機能は全くいっていない。「軽量コンパクト」とか「使いやすい」という、当たり前なことは、もちろんひと言も言っていない。その「ぼけ」という訴求点の絞り込み方が極めてシャープなのだ。
この初心者に使いやすい「背景ぼかしコントロール」の実現は、ソニーファンにとっても、「やったな!」と思わずうなるポイントがある。
ソニーのいくつものハードウエアに搭載されているユニークな機能の一つが「ジョグダイヤル」だ。
古くは1980年代半ばにソニーのベータマックス型ビデオデッキの特徴として、ホイールをクルクルと回してテープのコマ送りをしたり録画予約ができたりする機能と採用された。以来、「ソニーといえはジョグダイヤル」的な機能として市場に認知され、パソコンVAIO、PDA、電子辞書、ウォークマン、ミニコンポ、カーナビなどに採用。携帯電話では今は亡きツーカー向けの端末にサイドジョグとして搭載されて「クルクルピッピ♪」のコピーで親しまれた。
昨今、ダイヤル型のコントロール装置は他社の機器でも採用しているものがあったり、ソニー製のハードウエアでも必ず付いているという状況ではなくなったりしている。しかし、直感的な操作・使いやすさが求められるシーンでお家芸を投入して、ここ一番の勝負をかけているのは、「自社ならではの提供価値=Value Proposition」の示し方として秀逸だといえるだろう。
競合が厳しい市場に参入するなら、「訴求ポイントを徹底して絞り込む」「ターゲットニーズの実現に、“自社ならではの提供価値”を用いる」ことが重要だ。ソニーのソニーαNX-5・NX-3の展開は極めてシャープなのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。