エキナカ専用のフレーバーティー飲料が6月15日に発売される。JR東日本管内、1万台の自販機限定という極めてニッチな展開は、実はピンポイントにターゲットを絞るお手本的な展開であるのだ。
まず、「Realistic Scale(市場規模)」と「Rate of Growth(成長性)」。紅茶飲料は昨今、「炭酸飲料の一人勝ち」といわれている飲料市場において、成長と市場規模の拡大が見られるカテゴリーだ。特にフレーバーティーは景気の低迷によって、ミネラルウォーターや緑茶飲料が浄水器や自分で淹れることで代替され、市場縮小している中、伸びている貴重な存在であり、女性の支持が高い。
「Rank & Ripple Effect(優先順位と波及効果)」。同社のオリジナル小型ボトル飲料は130円~150円といずれも割高なのが特徴であるが、「FAUCHONマスカットティー」も275mlの小型ペットボトルで130円と若干高めの価格設定だ。これは、値引き・低価格化する飲料業界における逆張り戦略である。同社は「アンチデフレ」という戦略を掲げているが、そのためにはエキナカという値崩れの心配のない立地で、かつ、通勤客・有職女性を中心とした、コストコンシャスでない可処分所得が比較的高い、価値観を重視するターゲットをまず確保することが欠かせない。そのターゲットの支持を得て、効果地製品のラインアップを増やして波及効果を狙っているのである。
「Reach(到達可能性)」。通常の街ナカ自販機は男性ユーザーが90%だといわれている。対して、エキナカは女性比率が35%だ。街ナカに比べれば極めて効率的な到達環境にあるといえる。
「Rival(競合状況)」。フレーバーティーの人気商品といえば、今日では伊藤園の「Teas' Tea NEW YORK.」の名がまず挙がるだろう。であれば、あえてその横に「FAUCHONマスカットティー」を置く戦略が効果的だ。「Teas' Tea NEW YORK.」は現在「ベルガモット&オレンジ」と「フレッシュアップル」を展開している。同種のフレーバーでバッティングすることなく、ラインナップを広くとることで魅力を高めることができる。それも実は、JR東日本ウォータービジネスの自販機の商品構成にヒミツがある。同社は業界で唯一、売れ筋商品をメーカーにこだわらない完全な混載で販売する「ブランドミックス」をとっている。その戦略のおかげで競合を回避し、さらに魅力を高めることができているのだ。
ターゲットを絞ることは、その適切性が検証できればちっとも怖いことはない。むしろ、絞らずに漠然とした「評価される=売れる」期待だけで展開する方が遙かにリスクが高いのだ。
顧客の多様化・ニーズの多様化というキーワードが用いられるようになって、もう10年、20年が過ぎようとしている。しかし、未だに絞りきれない展開が散見される。「マスが命」と思われがちな飲料の新たな展開から学ぶべきところも大きいだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。