競争が厳しい市場に参入し、ある程度のシェアを確保しようとした場合、どのような手段をとるだろうか。特に、後発で物量作戦を展開できない、チャレンジャーのポジションとしての参入であったとしたら…。
同社の展開は記事にあるように、「オフィスビルの空室率が高止まりしている現状ではツアーバス各社にとって、都市部に待合室を確保する好機」を活かしたものだ。待合室を持つ運行会社が少なく、今までは雨天時には傘を差してバスを待つという状況だったことを考えれば大きな差別化ポイントとして機能することは間違いない。
しかし、この待合室の確保は、後発である平成エンタープライズ社にとって、さらに大きな意味がある。
「エイビスの車をお使いください。カウンターにお並びいただく列は、ずっと短くなっております」。米国のレンタカー会社の広告コピー例だ。業界№2を標榜するエイビスは、1位のハーツが追従しようにも追従できない戦略で攻撃している。すなわち、顧客数が少ないということは、すぐにチェックインできる最大の武器であったのである。
エイビスの例は、「企業資産の負債化」の戦略という。チャレンジャーが構築・蓄積してきた競争優位を無効にし、負債化する。(逆転の競争戦略:山田秀夫・生産性出版より抜粋)
平成エンタープライズのVIPラウンジの展開も同様の展開を行っているのである。
例えば新宿であれば、同社のバス乗り場は西口の「エルタワー前」だ。駅近くではあるが、待合室はなかった。新宿西口を知っている人なら、多くの高速バスが発着するヨドバシカメラ前の「新宿高速バスターミナル」の光景を思い浮かべるだろう。しかし、同社は後発参入故、発着場所を好立地には確保できない。他の拠点でも同様の状況だ。
好立地の発着場所を確保できない代わりに、待合場所を提供する。時間が近づけば、徒歩1分の距離を係員が先導し移動する。顧客にとって、何の不満もない。快適なむしろラウンジが快適であれば、満足感が高まる。一方の先行業者は、コストをかけて好立地の発着場所を確保しているため、今さらプラスアルファの投資はしにくい。つまり、そのスキを突いた戦略なのである。
チャレンジャーはリーダーの何倍も知恵を使わなければ生き残れない。ましてや、後発の不利を抱えているのであれば。顧客ニーズを深掘りするだけでなく、競合のスキにも常に目を光らせておくことが大切なのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。