キーエンスの力の源泉は“ビジネスモデル”

2007.09.25

経営・マネジメント

キーエンスの力の源泉は“ビジネスモデル”

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

当“INSIGHT NOW”で竹林篤実氏が「キーエンス、超収益の秘密」で同社の営業担当者の活躍ぶりを紹介されたが、あるメーカーのエンジニアから「営業を受ける側」としてのその姿を伺う機会を得た。そこでまさに、竹林氏が分析された「超収益の秘密」を裏付けることができた。

■では、誰でも「超収益」が実現できるのか?

 竹林氏はキーエンスの「超収益」を以下のような方程式で解いている。
<以下引用>
現場の不都合・不具合・不便を徹底的に聴きだす

それら『不』を改善する製品を提案する
=まさに相手がピンポイントで求めている製品です

相手の予算内で決済できる金額を提示する
=相手はわざわざ稟議を通したり、購買部を通したりせずに購入できる
=キーエンスとしてはほぼ見積り通りの金額で販売できる
<引用ここまで>

 上記のように方程式化できるということは、それが一つの「ビジネスモデル」として完成されていることを示している。

 ビジネスモデルを要素分解すれば以下の通りだ。
・「ストラテジー・モデル」=模倣困難なユニークな戦略性があること。
・「オペレーション・モデル」=戦略優位が保て、持続可能なしくみがあること。
・「レベニュー・モデル」=安定的に収益を確保できるしくみがあること。

 キーエンス社で考えれば、彼らの戦略優位性は「優秀な営業担当者が製造現場にアプローチし、高度なソリューションを提供する」ということだろう。

 しかし、それを支えている「オペレーション・モデル」を忘れてはならない。ある工場責任者が語ってくれた。「キーエンスの営業担当者だけでなく、その会社もまた凄い」と。「推測だが」との前提で「恐らくあの高いレベルでの専門知識や提案力は高度な“教育システム”が社内にあるからに違いない。さらに、社内の情報流通が円滑な“組織作り”がなされているのではないか」と。「戦略優位が保て、持続可能なしくみ」の存在を感じさせるということだ。

 また、キーエンスは自社で製造現場を持たないファブレス・メーカーであるが、それ故、「極めて短納期でサンプルや製品を持ってくるということは、協力会社に対して極めて強い支配力を持っているに違いない」と責任者は推測した。この部分もオペレーション・モデルの要諦だろう。

■レベニュー・モデルの重要性と三つの要素の整合性

 キーエンスの事例で最も重要なのは上記の「ストラテジー」と「オペレーション」の力を最大限に活かせる<価値を的確に評価してくれる相手に提供している>という「レベニュー・モデル」の構築である。「ソリューション・ビジネス」を目指すもそれが実現できない最も悲惨な状態は、「中途半端による稼ぎ損ない」だ。

 汎用品メーカーが高収益化を目指し、“ソリューション部隊”を作る。クライアントの問題点を発見し、解決策を提案する。歓迎される。「では、お見積ですが」というと、クライアントは「え~、おたくからたくさん(汎用品を)買ってるじゃない。いつもと同じ値段か、いくらぐらいにしてよ」と値切られる。かけた手間、汎用品をカスタマイズする工賃が全て無駄になる。
「エンジニア決済」があるじゃないかといわれるかもしれない。しかし、それは「この会社にしかできない」という価値を提供され続けているからこそ、認められるものだ。汎用品メーカーが「こちらはソリューション、こちらは汎用」と言ってもなかなか受取手が認めてくれないのだ。また、汎用品メーカーというだけで、商談は購買部が担当となってしまう場合もある。

 ビジネスモデルは三つの要素全てが整合していなければ成立しない。特にレベニュー・モデルの破綻は悲惨な結果をもたらす。また、その三要素が満たされたとしても、相手から認められるには時間がかかる。「キーエンスには誰もがすぐになれるわけではない」というところに、真の力の源泉がある。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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