これがマクドナルド?と目を疑うほどゆったりとしたオシャレな店内空間。クルーの制服もベレー帽をかぶっていて、今までとは全く違う。4月25日に都内12店舗でスタートしたマクドナルドの新型店舗だ。その狙いはいったい何だろうか?
日本のカフェ市場の大きな転換点は1996年であるといっていい。スターバックス日本進出の年だ。ドトール、ベローチェといった「低価格カフェ」が展開する、カウンターや狭小な席をメインとした店舗で、客の高回転率によって1杯180円という低価格でコーヒーを提供する新機軸は活況を呈し、すっかり旧来の喫茶店を駆逐した。しかし、消費者はもっとゆったりくつろげる店内で、旧来の喫茶店より手ごろな価格でコーヒーを楽しみたいという潜在需要があった。そこにはまったのが、コーヒーの味はもちろん、オシャレな店内空間も重要な「価値」として提供する、自宅、職場(学校)という場所以外の「サードプレイス(第三の場所)」という概念を持ち込んだスターバックスなのだ。
今日のカフェ市場を見ると、そのスターバックスの優位性は絶対ではなくなっている。後発のタリーズが同様な店舗コンセプトで展開し、スターバックス自身は出店数が多くなるにつれて、狭小な店舗も増え、ソファー席などは数えるほどになった。ドトールの上級ラインである「エクセルシオールカフェ」は大型のゆとりのある店内で顧客奪取を仕掛けている。
さらに、日本市場特有の需要として、フードの充実が求められている。昨今、「お一人様需要」が高まっており、女性のお一人様ディナーではカフェの利用が顕著であるが、その点においては、ドトールグループが一歩優位にあるように思われる。
カフェ市場の競合だけで考えると、若干の優劣はあるものの、概ね混戦の様相を呈している状況だ。しかし、「ゆとりのある店内」「フードの充実」という業界のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)を考えると、今回のマクドナルドの新世代店がピッタリそこに当てはまっていることが判る。しかも、既存のカフェ市場のプレイヤーに比べれば、圧倒的なコストリーダーであり、規模の経済によって、コストパフォーマンスのいい商品提供が可能なのである。クォーターパウンダーやBig Americaなどの高級路線バーガーが好評とはいえ、低価格路線とひたすらバランスをとり続けることが求められるハンバーガー業界から、客単価が高いカフェ市場に食指を伸ばしてドメイン拡張を図ったとしても不思議ではない。
とはいえ、閉鎖・入れ替え候補の数百店を全部一気に新世代店に転換するのはリスクが大きすぎる。
今回の展開は、まずはファストフードの聖地である渋谷を中心として一気に新世代店への転換を図って話題性を喚起・新世代店認知度を図りつつ、5タイプの店舗で反応を図る「実証実験」的な意味合いが強いのではないだろうか。以降、候補店舗のうち、客層と店舗規模などが適合したものを順次転換していくのだろう。
昨今の日本マクドナルドは客数と客単価のバランス、メニューの日米オリジナルバランス、地域別の価格設定だけでなく、メニュー価格の頻繁な見直しなど、店舗数から考えれば信じられないほど精緻な調整を繰り返している。筆者にはまるで巨大戦艦の舵を「ミリ単位」で調節しているように見える。
今回の新世代店への転換も、「信じられない!」と顧客が驚くほどの大胆さの裏側では、今後も緻密な調整が繰り返されていくに違いない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。