ちふれ化粧品の成長が著しい。「2003年度の売上高は78億円でしたが、08年度は約1.5倍の120億円、09年度は130億円規模まで伸びそうです」と社長の松本氏がインタビューに応えている。
日本市場は少子高齢化が顕著だ。数年前から始まった、男性人口の減少に続いて、今年、女性人口も減少に転じたとニュースで報じられた。市場のパイが縮小するということは、当然のことながら、競合との顧客の取り合いになることを意味している。その市場環境においては、いかに市場と顧客の動向、ニーズに敏感に対応できるかが生死を分かつのだ。
同社が方針転換をした2003年とはどのような時代であったのか。
1991年のバブル公開以降、93年から2003年までは、いわゆる「失われた10年」と呼ばれる時代だ。景気が循環し、2002年2月から2007年10月までの69ヵ月は過去最大の景気拡大期間にあったが、実質GDP成長率は過去の好景気に比べ低調で「実感なき好景気」といわれていた。
消費者はどう変化したのか。消費スタイルが「賢い消費」「堅実な消費」に向かったのだ。同社にとってはまさにフォローの風が吹いている時代だといっていい。
顧客層の人口動態の変化も重要だ。
40代半ばの筆者と同世代、もしくはもう少し上のもっともバブルを謳歌した世代の女性に聞くと、確かに同社の印象は「安い化粧品」とひとことで語られる。「学生時代にお金のなかった頃に使った。」「オトナの女の使う化粧品ではない。」などなど。
高額なものが尊ばれ、価格の安さはともすれば購買を忌避する要因にもなった時代ならではの意見だ。しかし、その世代は年齢が上がり、もはや興味の対象は「アンチエイジング化粧品」に移行している。「うるさい世代」がターゲット年齢からいなくなったからこそ、本来の「低価格高品質」を訴求する最大のチャンスであったのは間違いない。
市場環境・顧客の変化を捉え、従来自ら「禁じ手」としてきた方針を一気に転換して規模化を図る。その、舵を切ってアクセルを一気に踏み込む決断を下すのは、言うは易く行うは難しである。
「化粧品が高いのは、化粧品会社が努力していないからだと思います」「その企業が努力しているかどうかは、価格に出ると思います」「努力」という言葉が繰り返し語られているが、その「努力」が実を結ぶのは、適切な経営判断に基づいて「低価格高品質化粧品市場」という独自のドメイン・戦いの土俵を築くことができたからである。
うち手をいくつもダラダラと積み重ねるのではなく、「決断」するタイミングで一気呵成に市場に攻め込むことの重要性を「ちふれ化粧品」の成功から学びたい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。