米国で販売が開始されたiPad。世界で年間500万台が売れると予想されているというが、499ドルという価格はいかにして決定されているのだろうか。アップルの値付けの意図を考察してみよう。
iPadの競合を何と見るかが一つのカギになる。例えば、その形状や使われ方の一つからすると、電子書籍端末が上げられるだろう。Amazonの「Kindle 2」は359ドル。Barnes & Nobleの「nook」は259ドル。ソニーの「Reader Daily Edition」は399ドルと、いずれもiPadより大幅に安い。とすると、アップルはそれらを全く競合と見なしていないということになる。
およそ400~500ドルという価格で考えれば、個人用の小型パソコンであるネットブックがちょうど同程度の価格である。では、アップルはiPadの競合をネットブックと見ているかといえば、恐らくそれは全く違うだろう。それは、次の顧客(Customer)の視点を考えればわかる。
Customerの視点を端的に言えば、「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということだ。499ドルというネットブックと同等の価格で、それよりも遙かに優れたインターフェイスを持ち、気軽でスタイリッシュに使いこなせるiPad。比較対照してくれれば、その価値が理解しやすいといえるだろう。また、2007年の米国でのiPhone新発売時の販売価格は、4Gバイト品が499米ドル、8Gバイト品が599米ドルだった。それよりも遙かに液晶も大きくフラッシュメモリの容量も多い。非常にお買い得感があるといえるだろう。
新商品を市場に投入する場合、価格戦略には大きく分けて2つ選択肢がある。一つはスキミング(Skimming)戦略。英語の意味通り、「上澄みをすくい取る」こと。高価格・高利益で短期間での投資回収を狙う。模倣困難性が高く、価格をあまり気にしないイノベーターの支持が得られそうな場合に取れる戦略である。もう一つがペネトレーション(Penetration)戦略。こちらも読んで字の如く、「(市場への)浸透」を狙うことで、低収益を覚悟して短期間でシェアを確保して市場を席巻する戦略である。
iPadの商品性、アップルという企業を考えれば、上記のスキミング戦略をとることが十分可能である。確かに、粗利50%近い価格はオイシく、スキミング的に映る。しかし、それは調査会社のiSuppli社の「バラシ(分解)」によって初めてわかったこと。場合によっては、もっと高価格が付けられたかもしれない。それよりも、年間500万台という目標を考えれば、市場席巻を狙うペネトレーションを志向していることがわかるはずだ。
「499ドル」という数字の切れは、消費者に少しでも安く感じさせようという顧客心理を考えた「端数表示」の手法だ。それからも、数を少しでも売るペネトレーション型であることがわかるだろう。
ちなみに、iSuppli社はiPhoneもバラシをやっているが、それによると、製造原価は178.96ドルだという。発売以来増産を重ねて、規模の経済・経験効果で製造原価低減が図れていることがわかる。つまり、iPadの499ドルも「それいけ500万台!」に向けた価格設定だということだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。