「就職できない」 このことを、もっと真剣に皆で考えよう。
また就職が厳しくなったので、面接対策や書類の書き方やスキルアップ系など様々な就職支援が誕生しています。しかしながら、採用数が増えない現状では、ある人が就職支援を受けて就職できたとしても、別の人がその人の替わりに不採用となるだけのことですから、就職支援はその内容の良し悪しに関わらず、職に就ける人の数が増えるという目的を達成することにはつながりません。よくある例えで言うなら、いす取りゲームに参加している人を個別に応援しているだけであって、椅子の数を増やさないことには皆が幸せにはなれません。
新卒に限った話でいうと、「全ての大学の就職支援が非常に効果的になって、学生のレベルがグンと上がったら就職率も上がる(企業ももっと多くの人数を採用する)だろう。」というのは勘違いで、企業に雇用する余力や成長する見込みが生まれなければ採用数は増えないので、椅子を取りあう構図に変わりはありません。新聞紙上で、就職支援や失業者向けの教育訓練の記事をよく目にするようになりましたが、それは根本的な解決策ではないということです。同じことで、ハローワークの職員を増やして求人を開拓したところで、求人倍率は改善しますが、実質的な失業率には関係がありません。
3月29日の日経で、ボストンコンサルティンググループの御立氏が、大学と企業がそれぞれ卒業と入社時期を年4回にすれば、学生がじっくりと就職活動ができるために会社選びにおける気づきも増える(ミスマッチがなくなる)し、一斉就活・一斉入社ではなくなることにより、学生側の競争が緩和され、同時に企業も採用・受け入れのコストが減る(ので、就職率が上がる)という意見を述べておられます。確かに、社会へ出る際の選択を今より確かなものにするための正論ではあるとしても、若年層の雇用数を増やす対策としては難しいでしょう。
根本的な解決策=椅子を増やすためには、当たり前ですが経済の成長であって、デフレ化では雇用が増えないという問題を解決せねばなりません。ただし、今の景気がやや持ち直すくらいとか、ちょっとプラス成長になったくらいでは就職に困る人達が座れるくらいの椅子ができるはずはないので、これには時間がかかります。かといって、それ以外には手がないので成長軌道に乗るまで椅子は増えませんよというのでは、余りに厳しいというか無策で情けの無いことだと思います。
失業問題、特に新卒者を含む若年層の就職問題は前回氷河期を上回る大変なことになりはしないのでしょうか。また、景気が戻ったら何とかなる、昔だって全然就職がなかった時代があって、その頃の若者で立派になっている人もいるじゃないか、就職がないのは自分が悪い(イマドキの若者は使い物にならない)というような議論で構わないのでしょうか。高すぎる給与を減らす(企業の給与カーブや公務員の給与水準を見直す)、所得税率を見直す(減らせないなら税の仕組みで)、仕事や労働時間を分け合う、雇用吸収力のある分野の処遇改善に税金をつぎ込む、といった方策によって雇用を拡大するという議論をもっと継続的に行わないとならないと思いますが、就職支援が盛んになっているというような記事を書いているメディアはここをどのようにお考えなのでしょうか。
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2010.04.17
2010.05.10
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。