牛丼戦争が最終章を迎えたようだ。ついにすき家は牛丼並盛りの価格を280円に値下げした。松屋が11月末にタレの改良と共に渾身の320円という値下げに踏み切ったばかりだ。すき家の勝算はいかに?
その様子に対して、ファーストリテイリングの柳井 会長兼社長は冷ややかにコメントしている。 <非常に危険だと感じているのは、われわれが990円ジーンズを売るのは、企業として儲かっており、それだけ余裕があるからですよ。でも、ほかの余裕がない企業が990円のものばかり売ると、自分で自分の首を絞めるようなことになってしまう。これは経営判断として、非常に危険だと思います>(東洋経済オンライン12月 4日)
ファーストリテイリングはユニクロやジーユー全体で顧客に対してトータルに価値提供をしている。さらに、自社も様々な利益率の商品を組み合わせて売るマージンミックスで利益を確保する。<企業として利益を上げてお客様を増やしていこうということよりも、単純に宣伝効果だけを狙う企業>(同)とは違うとの指摘だ。
では、再び牛丼チェーン業界に視点を戻そう。渾身の値下げを行った松屋はどうか。松屋は牛丼チェーン業界の中でも最も多彩なメニューを誇っており、牛丼を値下げしても、まだまだマージンミックスを図ることは可能だ。しかし、牛丼依存率が低いため、更なる対抗値下げには踏み切らないとも考えられる。
吉野家はどうか。カレーなども投入したが、何といっても牛丼依存率が高い。故に、値下げは難しい。今後の同社の主戦場は、「2010年代半ばまでに1千店出店」の計画があるというとおり、国内よりも中国市場に軸足を移すものと考えられる。
では、すき家の戦略の真骨頂はどこにあるのか。日経新聞が伝えるところによると、<コメもブレンド米からコシヒカリに変更し、質も向上させる>とある。農林水産省から公表された平成21年産米穀小売価格調査の概要(21年10月分)によれば、コシヒカリの卸価格は下落傾向にある。同社にはフォローの風である。そして、値下げしながら品実改良をするという、一気にシェアを奪取する構えであると考えられる。規模の経済と経験効果を発揮して、ペネトレーションプライシングを実現するのだ。
ペネトレーションプライシングは「市場浸透価格」と訳され、とにかく低価格・低収益率に耐えて市場のシェアを広げる価格戦略である。収支トントン、場合によっては戦略的赤字も辞さない。規模化することで、店舗什器などの設備費、広告宣伝費、メニューなどの開発費という固定比率を低減する。さらに、顧客の回転率を上げて、単位時間あたりの従業員の人件費率も効率化する。固定費・変動費率の低減によって利益を創出する戦略である。
200円台の価格を実現したことによって、牛丼チェーン業界以外の低価格ランチ市場でも覇権を狙っているのは確実だ。しかし、その前に、すき家は既に店舗数で吉野家を追い抜いていることもあり、第一のターゲットが吉野家であることは間違いない。
最終章に突入した牛丼戦争から目が離せない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。