言葉にも「経時変化」というものがある。 人々が盛んに口にするが、時を経るごとに、様々に変容し、一種の都市伝説化するものも出てくるのだ。 その言葉原点や本来の意味をおさえておくことが重要だろう。
気になる解釈を聞いた。
”Web2.0”の中でも特に有名になった「ロング・テールの法則」を称しているようだ。
「80%の売れない商品を束ねれば、上位20%の売れ筋商品以上に収益を上げることができる」という主張だ。
・・・何やら本来の意味と違う気がする。
ちなみに上記の、どこか不思議な「ロング・テールの法則」の解釈に出てくる80%の20%の、というのは有名なパレートの法則だ。
ここで念のためおさらい。
19世紀末のイタリアの経済学者、ヴィルフレム・パレートが「世界の富の偏在」を調べようと各国を巡った。
その結果、「いずれの国でも約20%の富裕層がその国の約80%の冨を占有している」ということを発見した。
そして、それを様々な事象に当てはめてみると、上位20%の存在で結果の80%を生み出していることなどが発見され、ここからパレートの法則、もしくは20-80の法則といわれるようになった。
ただし、気を付けなければならないのは、「法則」とは言っても、おおもとは100年以上前の学者の「経験則」でしかないということ。
この20-80を鵜呑みにして、自社の上位2割の上顧客だけを優遇していたら、実は上顧客20%の貢献利益は半分以下で、意外とフラットな収益構造になっていたため、無駄な優遇措置費用と顧客に不公平感を与え離反が発生したという笑えない事例もある。
検証のためには顧客を利益貢献の高い順から10等分し、何番目までで何%の利益を生んでいるのかを見る「デシル分析」ぐらいは必須だ。
上記の「80%の売れない商品を束ねれば、上位20%の売れ筋商品以上に収益を上げることができる」とするのは、確実性のない、「都市伝説」と化している論と言えるだろう。
ちなみに、パレートが調べた大元の、富の偏在に関して。
昨年末の国連大学世界開発経済研究所の発表によれば、「2000年の世界の個人総資産は125兆ドル。上位10%の富裕層が85%を保有」とのことなので、10-85が今日の実態。100年間で富の偏在・格差は進み、パレートの経験則も必ずしも真実を表わさなくなっている。
都市伝説化している法則やセオリーで有名なものをもう一つ紹介すると、「メラビアンの法則」もそのたぐいだ。
米国の心理学者メラビアンの実験結果から「人の印象は服装・姿勢・立ち居振る舞い・表情などの外見で55%、話し方や声のトーンで38%が決まり、話す内容ではわずか7%しか伝わらない」という解釈が一人歩きした。
しかし、実験は話す内容がいかに伝わるかを検証するものでは全くない。
その誤解を解くため、メラビアン自身がコメントを発表する羽目になっている。
この誤解は一部のコンタクトセンターなどを中心として都市伝説化しているようだ。
話の内容は7%しか占めていないので、話し方や声のトーンの38%がいかに大事かと。
確かに声の話し方・トーンは重要だが、余りそこにだけ注力しては、そもそもの話の内容、スクリプトを軽視することにも繋がりかねない。
経験的になり、実験でなり、先達が世の中の事象をわかりやすく法則やセオリーとして示してくれているものは大いに活用すべきだろう。
しかし、そのおおもとの意味を誤解しないことと、自分が当てはめようとしている事象に本当にマッチするのかという、批判的なものの見方を忘れると、とんでもない「都市伝説の妄信」になってしまう。
自分の頭にストックされているそうしたネタも一度見直してみる必要があるだろう。
これは自戒の意味も込めて書いている。
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2009.08.22
2011.10.17
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。