居酒屋デフレ戦争・「全品均一価格」店隆盛の意味するものは?

2009.11.16

営業・マーケティング

居酒屋デフレ戦争・「全品均一価格」店隆盛の意味するものは?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 アルコールを含む「全品299円」などの「低価格・均一価格居酒屋」が急増しているという。居酒屋業界は今後どうなっていくのか。

 素材の仕入れ価格もさることながら、人件費をどう押さえ込むかも重要だ。一般に居酒屋の原価率でいえば、原材料30%、人件費25%程度であるという。原材料を押さえ込んでも人の効率を上げなければ、規模化することによって厨房やホールが混乱し、むしろ無駄が出かねない。そこを<タッチパネル型の無線注文システムの採用で人件費を圧縮した>という。恐らく、タッチパネルだけではなく、オペレーションの隅々まで効率化を図りマニュアル化をしたのではないかと推測できる。

 上記のような経費の低減化が均一価格による効果かといえば、そればかりではない。
 <支払額がわかりやすいため、景気悪化で懐の厳しいサラリーマンを中心に人気を集めている>(Fuji Sankei Business i)という。昨今の仕事帰りの一杯における「予算を決めて飲みすぎず、さっさと切り上げる」という風潮とズバリマッチしているのである。つまり、さっさと切り上げてくれれば、「回転率」が高くなる。

 利益=売上-原価だ。原価は原材料も人件費も低減化を図る。そして、売上げ=客数×客単価である。
 激安居酒屋はマージンミックスによって最終的には客単価向上を狙っている。しかし、とかく呑みの席は時間が経つに従って、料理の注文はストップし、アルコールの消費もペースが落ちる。それよりは、分りやすい価格で予算上限までササッと呑んで帰ってくれる客を狙った方が効率がいい。つまり、均一価格の実現は「コストの低減化」だけではなく。「高効率化」が車軸の両輪なのである。そうして考えてみると、人件費も単に削減しているのではなく、少ない人員でオペレーションするという「高効率化」を目指していることが分るのだ。

 飲食業は極めて参入障壁が低い業種である。それ故、いままで大手居酒屋チェーンが店舗数を拡大しても、個人や中小零細企業が営む居酒屋も共存できていた。
 その業界に、大量にQCDを保って原材料を低廉に仕入れ、さらに人件費を効率化するオペレーションを確立して、支援システムを装備するという、極めて高い参入障壁を持った勢力が拡大している。しかもそれは、顧客の求める「明瞭な価格設定」と「長居しない」という志向にピッタリとマッチしている。

 Fuji Sankei Business iは<日本フードサービス協会によると、パブ・居酒屋の全店売上高は9月まで9カ月連続で前年実績を割り込んでいる。集客増を狙いに「居酒屋のデフレ化」が進みそうだ>と記事を締めくくっている。
 誰でも始めることができる。しかし、続けることが難しい居酒屋業界の風景が確実に変わり始めている。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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