永谷園の「生姜部」をご存じだろうか。同社がコツコツと地道に続けてきた活動が、昨今開花し始めている。
■プロモーション(Promotion)効果の増大
前述の「社外生姜部」の効果も無視できない。
社外生姜部には2つの会員資格がある。「オンライン部員」と「特別部員」だ。オンラインはメールを中心とした気軽に参加できる資格であるが、特別部員は生姜レシピのムービーへの出演や商品開発への参画などにも携われる代わりに、何と「入部試験」があるという。しかし、入部希望者続出で、常に追加募集待ちの状態である。前項で述べた、「これがあって良かった!」という気持ち(Peace of mind)を提供する製品は、「熱狂的なファン」を生むのである。
元東京大学大学院教授・丸の内ブランドフォーラム代表の片平英貴氏が提唱している「AIDEES」という消費者行動モデルがある。製品を認知(Attention)・理解(Interest)した後に経験(Experience)し、その良さに惚れ込み(Enthusiasm)、人に推奨(Share)するというものだ。伝統的な消費者行動モデルであるといわれるAIDMAに代わる、インターネット時代の新たな行動モデルといわれるAIDEESが生姜部では正に現実のものとなっている。ますます、生姜部とその製品の価値地はクチコミによって喧伝されていくのだ。
■チャネル(Place)露出効果の増大
従来の永谷園商品は、スーパーの棚、コンビニの棚の一部に収まっているにすぎなかった。しかし、「冷え知らずさんの生姜シリーズ」は展開スペースを大きく拡大することに成功している。ナチュラルローソンでは、他社の生姜製品も含めてではあるが、過半を同シリーズが占めた「冬に向けた生姜特設コーナー」を展開した。JR東日本管内のエキナカで1万台の自販機を展開するJR東日本ウォータービジネスは、冬に向けたホット飲料強化の方針とマッチする「冷え知らずさんの生姜シリーズ・生姜チャイ」を自販機に導入した。また、今月17日発売のシリーズ製品「生姜のど飴 かりん」「生姜キャラメル チャイ風味」「生姜グミ 梅味」は食品流通各社の菓子棚に導入されることだろう。
従来の永谷園ではあり得なかったチャネルを開拓。それによる売上げ増大だけでなく、「永谷園ってこんな製品も出しているんだ」という消費者の認知を獲得する効果も発揮できるのだ。
■売上げ・利益(≒Price)拡大効果
従来の永谷園製品は「お茶づけ海苔」=「お茶漬けを食べる時」、「チャーハンもと」=「チャーハンを食べる時」しか用いられないのが基本だ。そのことからすると、購買頻度(Frequency)はあまり期待できない。それ故、様々な製品を展開し一人の顧客にクロスセル(併売)して購買総額の向上を図っている。しかし、「冷え知らずさん」シリーズは単体の製品、例えば飲料や菓子であれば、お気に入りの商品の購買頻度は高くなる。また、シリーズ製品の併買率も高くなることが期待できる。従来にない、「顧客生涯価値」の向上が期待できるのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。