なにやら最近とろけている。 いや、筆者がとろけるような、あま~い生活を送っているのではない。食べ物の話だ。「とろける○○」という食品を昨今、随分目にしないだろうか。
「口どけがよい」がさらに、発音しやすい「とろとろ」という擬態語に変形して、「とろける」になって、さらにそれが商品名となり、広告宣伝で表示・連呼されさらに増殖しているというのが今日の「とろける」大流行の現状ではないだろうか。
しかし、それにしてもなぜ、人は「とろける」にそれまでに惹かれるのであろうか。
食品の柔らかさに関しては、現代において低下する一方の「食事の咀嚼回数」との関係が深そうだ。
斉藤 滋・著「料理別咀嚼回数ガイド」風人社(2002年)によれば、時代の変遷と共にその激減さがよく分る。1回の食事あたり、弥生時代:3990回、鎌倉時代:2654回、江戸時代:1465回、戦前:1420回、現代:620回だという。さすがに弥生時代の食べ物は固そうで比べるべくもないが、戦前の数字を見れば、ここ60年で6割減っていることがわかる。簡単に言えば、我々はもはや「固い食べ物に耐えられないカラダ(アゴ)」になってしまっているのではないだろうか。こんなことを書くと、歯医者さんあたりがさらに頭を悩ませそうだが、この流れは止めようもないように思う。若年層の柔らかいもの嗜好だけではなく、高齢化が進む世の中では、固いものは敬遠されがちである。老いも若きも「とろけるLOVE!」なトレンドなのである。
さらに、咀嚼というフィジカルな理由だけではないようにも思われる。再びGoogleで検索をしてみる。「とろける」で、検索結果が約 2,590,000 件出てくる。
少し論理が飛躍するが、「癒し」で検索する。約 51,000,000 件と、いかに癒しが求められているのか分る数字が表示されるが、続けて「癒し とろける」だと約 1,090,000件が表示される。「癒し」と、「とろける」という言葉は親和性が高いといえるだろう。
とろける飲料を飲んで「ホッ」。とろけるシチューを食べて「ほ~つ」。その他食品も口中で柔らかく解けていったり、崩れて広がっていったりする食感で「ほっ」と癒されているのが現代人の食の風景であり、現代人のメンタリティーなのではないだろうか。
日経MJが2009年10月14日の誌面で同社の産業地域研究所の調査データを掲載した。
(概要: http://www.nikkei.co.jp/rim/trend/contents/09_10stress.html )
<景気低迷や雇用環境の悪化に加え、職場や家庭の人間関係など、現代社会ではストレスを避けて生きることはできない。実際、今回の調査でも、若者・女性を中心とした半数以上が「強いストレスを感じている」と答えている>ということだ。そして、<ストレスの高い人のストレス解消法を探っていくと、「睡眠」「飲食」「たわいないおしゃべり」など、比較的単純でストレートな方法で憂さ晴らしをしていることがわかった>という。
ストレスを感じている人は半数を超え、時々感じる人まで含めれば、100%近くに上るというこのストレス社会。調査結果は<ストレス解消に新たな商機>とされているが、まさに、誰もがストレスを感じて癒しを求めている時に、「飲食によるストレス解消」を狙って「とろける」「とろとろ」な飲料や食品が展開されているのである。
このトレンドは当分、続くことになるであろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。