長崎の名物料理「長崎ちゃんぽん」を全国展開するリンガーハット。昨今の不景気の中で客足を維持したい外食産業が軒並み低価格戦略に舵を切る中、同社は逆張りの値上げ戦略に転換した。その勝算はどこにあるのだろうか。
メディアの伝えるところによると、<米浜和英社長は「値下げでの集客には限界がある。時代に逆行するかもしれないが、国産野菜本来のおいしさを届けたい」と説明>とある。(毎日新聞 2009年10月1日 西部朝刊)。不景気で財布の紐が固くなった消費者に対して、外食産業は雪崩を打って値下げ戦略をとった。しかし、それは血みどろの消耗戦を意味するものでもある。リンガーハットはそれに対して「逆張り」の戦略を展開するのである。確かに、原材料価格を見ると、麺に使う小麦だけでなく、ちゃんぽんの重要な具材である野菜も、日照不足など各地で天候不順が続き高騰を続けている。原材料費全体が下がっているわけではない。しかし、それを単純に値上げするだけでないことが今回のキモなのだ。
リンガーハットは<ちゃんぽんと皿うどんの食材の野菜すべてを国産にする(中略)「国産野菜のおいしさと安全性」を訴える「付加価値戦略」への転換>(同紙)であるとの発表している。
食の安全・安心に対する関心は相変わらず高い。それに応えて、同社は<キャベツやもやしなど年間1万2400トンの野菜を食材に使用し、タマネギやニンジンなど2400トンは輸入していたが、今後はすべて国産に切り替える。国産野菜を安定的に確保するため、国内15道県・約40産地の農家と契約した>(同紙)と、単純な値上げではなく、自社のバリューチェーンを大きく転換している。それによって、「需要志向」の価格設定における、「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」という要素で欠かせない「食の安心・安全」という、ある意味、プライスレスな価値を訴求しているのだ。
細かく見てみると、なかなか芸の細かいプライシングであることが分る。国産化だけでなく、さらに野菜の量を1人前当たり25グラム増量するという。野菜高騰の折、消費者にとってはうれしい限りであるが、それに対する値上げは、<長崎ちゃんぽんの値段は東日本が500円(従来450円)、西日本490円(同)、東京都内23区550円(同)>であるという。これは日本マクドナルドでが2007年6月から導入した「地域別価格設定」と同じだ。地域によって「いくらまで払っていいか」と感じる「需要志向」の感覚の差異を綿密に検討したものだと思われる。
さらに、<野菜の量が2倍の「野菜たっぷりちゃんぽん」(全地区650円)も新たに発売する>(同紙)という。650円といえば、なかなかの高額メニューである。高価格のメニューで利幅を稼ぐ「マージンミックス」の手法であるが、そこはしっかり全国的に見てもほぼ、ラーメンの価格の上限におさえる、「競争志向」の価格設定も意識していると考えられるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。