花王の「スタイルフィット」「アタックNeo(ネオ)」、P&Gの「さらさ」など、昨今ニュータイプともいうべき衣類用洗濯洗剤の登場が相次いでいる。洗剤は普段なにげなく使っているコモデティー品の代表格といってもいい。それらは長く進化を止めているようにも見えるが、そのままで生き残っていられるほど現代の市場環境は甘くはない。では、ニュータイプ洗剤は進化の過程でどのような力を獲得していったのだろうか。
■液体洗剤の勝負のしどころ
粉末の問題点を解消した液体洗剤であるが、実は主成分である界面活性剤が液体であるため、実体価値である、「よりきれいにする」「より白くする」を実現するための酵素剤、キレート剤、酸素系漂白剤などが、水に溶けて安定しているものが少なく入れにくいという弱点が存在したという。そのため各社の勝負は、いかに実体価値を高めるかに注がれることになり、「輝く白さ」や「色柄ものの鮮やかさ」などの仕上がりを競い合うようになったのだ。
■「足し算」の花王・スタイルフィット
上記の「よりきれいにする」「より白くする」という実体価値は、各社の努力で一通り実現されたようであるが、そうなると、再び付随機能での勝負が始まる。もともと、製品の価値構造は、中核的価値から一番遠い付随機能を付加する方が一番バリエーションも多くやりやすいといえる。多くの製品がコモデティー化すると、カラーバリエーションに走るのはこのためだ。例えば、ノートパソコンが何色であっても、ドキュメントの作成やインターネットの利用という、中核的価値には何の影響も及ぼさない。しかし、もはや差別化は色ぐらいでしか図れないため、在庫リスクの上昇というデメリットを承知で各社はカラーバリエーション展開をしているのだ。
液体洗剤の付随機能として、花王は「香り」に注目した。米国製の柔軟仕上げ剤「ダウニー」は、仕上がってからも強烈に香りが残る。従来の日本製にはないそうした要素が若年層や若い主婦に受けて、主にECサイトを中心として大人気となった。そこで花王は、2009年6月のスタイルフィットの製品リニューアル時に、セット商品の柔軟仕上げ剤と共に「香り」の要素をさらに強調するようになった。
■「かけ算」の花王・アタックNeo(ネオ)
花王のチャレンジはスタイルフィットのような、付随機能の足し算だけでは終わっていない。2009年6月に新CIを定め、環境宣言を掲げたのと時を同じくして、そのポリシーをそのまま製品化したかのようなアタックNeo(ネオ)を発表。8月末から発売を開始した。同製品は、液体洗剤を従来の2.5倍という高濃度に圧縮し、少量でも、抜群の洗浄力を発揮するという。そして一番の眼目は、繊維に残りにくく、すばやく泡切れするという新洗浄成分の特徴を活かし、従来すすぎを2回していた洗濯のしかたを、すすぎ1回ですむようにしたことだ。
濃縮度を上げて使用量を減少させたのは、粉末時代のコンパクト洗剤と同じく、環境負荷軽減に役立つが、さらにすすぎ1回は水と電気の使用量を削減できるという効果がある。当然、水道代、電気代の低減できるため財布にもやさしい。さらに、すすぎ1回、10分間という時間も短縮でき家事の負荷軽減も実現する。それは、洗剤の「汚れが落とせる」という中核価値の実現を支える、実体価値を何倍にも高める「かけ算」であるといってもいいだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。